5月4日 発した先に「1」

朝日新聞2018年4月29日31面:「炎上」狙い過激発言 「議論おたく」匿名で暴走 1面から続く 公益社団法人・日本青年会議所(日本JC)がひそかにつくった「保守キャラクターツイッター」の「宇予くん」は今年の元旦から毎日のように発信した。「自民党改憲案を読んでの感想が『何としても戦争をしたいんだ』だと。間違いなく狂っているど」「左翼の論理はメチャクチャだど。洗脳って怖いど」憲法について語った一般市民や国会議員、一部メディアの名を挙げ、誹謗中傷を繰り返した。
2月末。日本JCが関与しているのではないかとの疑惑がネット上で飛び交い、日本JCが認めた。JC運動は日本では1949年に始まり、「共に向上し合い、社会に貢献しよう」という理念で各地で誕生した。参加資格は20~40歳で、会員は企業の役員ら約3万6千人。日本JCは、全国に約700ある地域のJCから出向した約2100人で構成され、様々な活動にあたる。2005年と12年に軍隊保持などを盛り込んだ独自の憲法改正草案を作り、憲法を考える事業に取り組んできた。昨年は全都道府県で討論会を開催。そこでは改憲、護憲それぞれの立場で討議する形式をとることにしていた。
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日本JCの今年の活動の一つだった「目指せ全国300万人賛成投票プロジェクト」。その内部資料に「打ち合わせ議事録」がある。「憲法改正推進委員会」の男性幹部(39)が昨年、ウェブマーケティング会社社長に尋ねたとされる内容が記されている。ーバズりやすい(注目を集めやすい)ものは? 「いい意味でバズるのは難しい」「予算がなければ炎上系で拡散させる」 ーツイッターをどう生かすか? 「右の発言、毒舌の発言で炎上させる」「派手なこと、あほなことをしなければ100万単位はない」検討段階とみられる資料にも「対左翼を意識し、炎上による拡散も狙う」と書かれていた。
都心のビルの一室。記者が、ウェブマーケティング会社を訪ねた。30代の男性社長は取材に「100万円で3千万人のアクセスを稼ぐにはどうしたらいいかと相談は受けた」と話した。ただ、「3千万人という目標を見直したほうがいいと、きっぱり言った」と具体的な助言は否定した。
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今年に入り、プロジェクトの資料が各地のJCに届いた。西日本のあるJCは取り合わないことを決めた。メンバーの男性は内容を読み、疑問を抱いた。「姿を隠した発信は一方的に意見を押しつけることになる」。これまでJCは、意見が割れる問題で双方が意見を言い、人々に考えてもらう場を提供してきた自負がある。炎上を狙った「宇予くん」について「注目を集める手法を追い求めるあまり暴走した」と言う。
日本JCで活動経験がある男性は「よく徹夜で議論していた。議論おたくの集団だった」と振り返る。今回の件は「異論に向き合わない姿勢が根底にあるのではないか」と考える。ネットメディアに詳しい東京工業大の西田亮介準教授は「政治的主張のある団体が一般の人を装って発信すると、世論の一つを誤認され、無警戒に人々の考えに入り込む恐れがある」と指摘する。姿を隠して発信する手法は、大量の匿名アカウントで候補者への中傷や支持が拡散された16年の米大統領選で見られた。西田准教授はこうした手法が広がれば、言論のゆがみが大きくなると懸念する。
姿を隠したツイッターで政治的な影響を及ぼそうとした「宇予くん」。憲法改正推進委員会の男性幹部は取材に「何もお答えできません」と繰り返した。日本JCは2月末と3月初め、ホームページ上で「特定団体からの発信だと個人レベルの議論が活性化しづらいと考えた。企画段階では、憲法改正に関する論点や歴史、愛国心など保守的なことを面白くつぶやき、拡散させるというものだった」と説明。「宇予くん」の誕生を許した理由は「個人アカウントを使用したことで内部のコンプライアンスチェックが行き届かなかった」とし、この憲法事業を白紙に戻すとした。今回、改めて取材を申し込んだが、「回答を控えさせていただく」とした。内部資料では、改憲に賛成する人をどれだけ増やせるか、各事業の年間目標を設けていた。「宇予くん」は約4760万人だった。
(この連載は伊藤繭利、大谷聡、金山隆之介、貞国聖子、沢木香織、鈴木春香が担当します)

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