5月2日 自ら考え行動できる訓練

朝日新聞2019年4月29日24面:刻々と設定変化 避難路を判断 通行止め・避難所満員・火災に直面 「消火を手伝わんと!」「手伝ったら避難できないで!」ー。阪神大震災で被災した兵庫県尼崎市。市立大島小学校で2月、6年生(当時)約40人が教室で地図を見つめながら、熱心に意見をぶつけ合っていた。南海トラフ地震を想定した「図上避難訓練」と呼ばれる防災学習の一コマだ。想定では、市内最大4㍍の津波に襲われる。設定は、家族がいない夜間に自宅で愛犬とともに揺れに見舞われ、津波到達までに避難するという内容だ。担任の教師は「通行止め」など刻々と設定を変化させる。
それを踏まえて、生徒らは地図を見ながら経路を考える。移動できる距離は5分間に250㍍。愛犬を連れて行くか否かなどの判断で変わる。避難所が満員だったり、火災に直面したりする度、判断を迫られる。授業を終えた児童は「非難するときに必要なものを考えて、準備しておきたい」と話した。一般的に訓練は、校内など教師がいる場面での被災を想定することが多い。だが、校外で被災することもある。子どもたちが自分で判断できるよう、大島小では2017年にこうした訓練を始めた。考案者で、現在は隣の西宮市の小学校に勤める曽川剛志教諭は「答えは一つではない。その場で考える大切さを実感してほしい」と強調する。
愛知県岡崎市にある常磐東小学校は児童46人の小さな学校だ。周辺の斜面は崩れやすい花崗岩で、学区内の85ヵ所が土砂災害特別警戒区域に指定されている。徒歩で1時間かけて通学する児童もいる。東日本大震災の後、地域の要望を受け、学校が「地域防災」に率先して取り組んできた。理化、社会、国語、家庭科ー。全学年で多くの強化に防災の学習を盛り込む。6年生は地域を歩き、地震や豪雨の際に危険な場所を見つけて地図を作り、学校のウェブサイトで公開する。意識や備えを持ってもらおうと、学区の約340世帯に毎年防災アンケートを配る。性かは年1回、住民向けに発表。取り組みには大学の教員や学生、地域住民も加わる。
近藤嗣郎校長は「自分で調べ、考え、多くの人との関わりの中で判断力、生きる力を付けてもらうのが狙い。考えて結論を出すことが大事」と言う。校外で、家族とともに学べる施設もある。東京都江東区の防災体験学習施設「そなエリア東京」には、首都圏直下地震の発生後72時間をどう生き延びるか体験できるコースがある。停電し、建物が崩れ、電柱が倒れた町並みを再現。その中を織るきながらタブレット端末でクイズに答えていく。「この場にもし自分がいたら」をリアルに考えることができる。避難生活のさまざまな困難を紹介する展示もある。東日本だ震災後の避難所を再現したものもあり、「あなたならどうする?」という視点を盛り込む。年間3万人の小中学生が授業や修学旅行で訪れるという。スタッフの石川緑さんは「災害時にどう生き延びるかを学べる。日ごろの備えを考えるきっかけにしてもらえれば」としている。(鈴木智之、小林舞子)
積み重ねで体が動いた釜石の経験 各教科に採り入れて「防災」身近に 自ら判断する力を育む防災教育が広がる背景には、東日本大震災の経験がある。津波に襲われた岩手県釜石市では、中学生が小学生の手を引き、住民とともにより高い場所へと避難することができた。日ごろの防災教育の積み重ねが行動に結びついていた。「自分の命を自分で守る」「助けられる人から助ける人へ」。海に近い釜石東中がこんな目標を掲げ、防災教育を本格化させたのは2009年。日中は子どもと高齢者ばかりになる地域で、中学生が果たす役割も大きいと考えた。地域の歴史を調べ、地震や津波が起こる仕組み、身を守る行動などを学んだ。過去の津波の高さを校舎で測って矢印で示し、下から眺めて実感。校庭で車を津波のスピードで走らせ、追いつかれる体験もした。
津波が迫ったときは各自で逃げる「津波てんでんこ」を伝えるドラマづくりにも取り組んだ。サイレンが鳴っても逃げようとしない父親や、「高い所を目指してひたすら逃げる」「避難所を話し合っておく」といった教えを伝える「てんでんこレンジャー」を生徒が演じ、地元のケーブルテレビで放映した。避難訓練は隣の小学校と合同で実施。生徒の提案で避難済みかどうかを玄関に示す「安否札」を各戸に配る取り組みも進めた。「地域のためにと考えると真剣味が増す。生徒の多くが『自分ごと』だととらえていた」。震災前年まで釜石東中の教諭だった森本晋也さん=現文部科学省安全教育調査官=は振り返る。震災後、当時の生徒にアンケートや聞き取りをすると、主体的、自発的に取り組んだことが強く印象に残っている傾向があったという。
震災時、揺れの大きさや長さから大きな津波が来ると考えた生徒や、訓練をしていたから体が自然に動いたと証言した生徒もいた。学習をきっかけに避難について話し合っていたため津波を免れた家族もいた。「生徒たちのなかで学習や経験が結びつき、知恵や行動力につながっていた」と森本さんは言う。様々な教科に防災を採り入れれば、入り口が多様化し、子どもの関心とも結びつきやすい。文科省は、各教科を通じて防災教育に取り組むよう学習指導要領などで促している。教科ごとの内容が互いにつながる工夫も求められる。今年度から、大学の教職課程でも防災を含む学校安全への対応が必修化された。各地の教育委員会や民間団体なども、防災教育に役立つ様々な教材を提供している。
まず机の下に潜り、先生の指示で整然と校庭に出るー。こんな型通りの訓練で済ませるケースも従来は多かった。しかし、地震は机のある教室にいるときに起こるとは限らない。近くに大人がいないこともある。東京学芸大の渡辺正樹教授(安全教育学)は「自ら危険に気付き、安全な行動を取れるようにするのが震災後の流れ。先生も型にはまることなく、想像力を働かせてほしい。教育委員会による支援や、自治体や地域との連携も必要」と話す。

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