5月2日 この体だからこその出会いがある

朝日新聞2019年4月29日21面:宇積宇宙さん障害とともに生きて 生まれつき骨が弱く車いすを利用する母と娘が一緒に本を書いた。安積遊歩さん(63)と娘の宇宙さん(22)だ。障害のある人の自律生活運動の先駆者として差別と闘ってきた母からバトンを受け継ぐ宇宙さん。この本のなかで「障害をもって生まれてきたことは私にとって幸運」と言い切る。留学生としてニュージーランド(NZ)の大学で社会福祉を学ぶ宇宙さんに思いを聞いた。
車いすで人に手を借りなければいけないということは、人と出会うチャンスでもあります。障害があって幸運だったと思うのは、この体だったからこその出会いがあり、生きてきた道を好きだと思えるからです。私が生まれたことを、両親や多くの人が心から祝福してくれたラッキーな環境のおかげでもあります。中学生のころ「あなたといると差別される」と同級生に言われた経験があります。ショックでしたが、自分の内なる差別心にも気づくきっかけにもなりました。
私が1人で街を歩いても人の視線は集まります。でも、より重い障害の人と歩くと視線の強さが違います。障害の重い人と一緒にいるときに同じにされたくないと思うことがありました。それは同級生が私に抱いた気持ちと一緒だなと気づいたんです。その思いを抱くことは、結局自分が社会から差別されていることを助長することになるのだなと。10代までは「普通」に強くあこがれていました。私が好きな少女漫画の主人公のように、制服を着て学校に通い、放課後は友達と遊びに出かけて、クラスの男の子のうわさ話。そんな学生生活を送りたいと思っていました。
ただ留学して「普通」ってなんだろうと考えるようになりました。日本で「私は(動物性食品を食べない)ビーガンです」と言うと「ん?」という反応が返ってきますが、NZの大学にはビーガンの友人が何人もいます。「普通」の物差しはたくさんあると感じます。NZの知的障害のある人の支援団体で数カ月間研修をしました。重い障害のある人が地域で暮らし、生きる力を肌で感じました。大変なことがあるのはもちろん事実だけど、様々な障害すべてを魅力的に感じることができるようになりました。入所者19人の命が奪われた「津久井やまゆり園事件」の後、道行く人と街頭で「ハグ」する「フリーハグ」に取り組みました。「私も殺される対象の一人」と思い、事件直後は部屋を出られないほどの恐怖を感じました。でも自分の体を使って私は殺されたくないと伝えたかったし、生きていていいよというみんなのぬくもりを感じたかったのです。将来の夢ですか? 通訳やインテリアデザイナーになりたいと思った時期もありましたが、いまはソーシャルワーカーを目指します。人と人をつなぐ接着剤のような役割ができたら。そして、子どもや若い人が生きやすい社会を実現できるような生き方をしたと思っています。いつか子どもはほしいなと思っています。自分で産んでも養子でも、どちらでも。子どもに障害があったら、それでいい。あえて言うなら、障害をもっていてほしい。だって、私の経験を共有できるじゃないですか。(構成 編集委員・清川卓史)
母と共著 誰かのヒントに 親子の共著は「多様性のレッスン」(ミツイパブリッシング)。人生についての読者の問いかけに、遊歩さん、宇宙さんがそれぞれ回答する内容だ。「障害をもつ子を産んだら?」「人は生産性ではかれるか?」など、優生思想や差別に関わる質問にも正面から答えている。1994年、遊歩さんはエジプトで開かれた国連の国際人口開発会議のNGOフォーラムで、「不良な子孫の出生を防止する」ことをうたう優生保護法を強く批判した。優生保護法が母体保護法に改正され、優生という言葉や本人同意が不要な不妊手術の規定が削除されたのは96年のことだ。その同じ年、宇宙さんは誕生した。そして今月、旧優生保護法の下で行われた不妊手術の被害者救済法が成立、安倍晋三首相が反省とおわびの談話を公表した。「自分がきらい」。壮絶な自己否定の思いと幼い頃から闘い続けた遊歩さんは、宇宙さんを「同志」と呼び、子育てでは「肯定的な言葉をかけ続けた」と振り返る。宇宙さんにとっては初の著書。「私と母の『普通』とは少し違った人生から生まれる言葉が読む人のヒントになれば」と語っている。

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