5月17日 裁判員10年見えてきた課題「5」

朝日新聞2019年5月14日26面:経験共有 秘密義務の壁 過度な自粛「社会的な損失」 「私のこと、覚えていますか?」2013年7月、会社員の40代男性は東京・秋葉原の法律事務所を訪れ、弁護士と対面した。「あーっ!」弁護士は驚きの声をあげた。男性は、数日前に東京地裁で有罪判決が言い渡された覚醒剤密輸事件の裁判員だった。弁護士はその公判で、無罪を主張して争っていた。裁判の争点は、米国から持ち帰ったスーツケースの中に「違法薬物が隠されている」という認識があったかどうか。評議の末、認識がったという結論が導かれたが、男性には「裁判官と対等な議論ができていない」という不満があった。
気になったのは、法廷での弁護士のたたずまい。書面を読まず言葉で訴えかけくる姿が忘れられなかった。一般の法律相談として面会の予約を入れてみた。「評議の中身は言わなくて結構ですよ」。男性を覚えていた弁護士はすぐ伝えた。互いに意識したのは、判決に至る評議を対外的に話してはいけない「守秘義務」。男性は、仕事の思いなどを聞いただけで、事務所を後にした。弁護士は現在、日産自動車前会長のカルロス・ゴーン被告の弁護人も務める高野隆氏だ。今年に入り、何度もテレビに映る姿を見て、男性は「高野氏と何か、と答え合わせをしたかったのかもしれない」と感じた。「自分の中では今も評議が続いている感じで、わだかまりが残っている」 最高裁「伝えて」 裁判員は評議の経過や、そこで出た意見などは一生、口外できない。違反すると6ヵ月以下の懲役か50万円以下の罰金が科される。非公開の評議で自由に発言でき、事件関係者からの報復も防ぐために設けられた規定だ。
ただ、守秘義務の厳しさ故、経験した内容や制度の意義は広がりにくい。会社員の小野麻由美さん(52)は17年に東京地裁で強盗致傷事件の裁判員を務めた。今年3月、制度スタートから10年の節目に合わせ、経験を発信するブログを書き始めた。しかし、具体的な事件に触れてからの話は、まったく筆が進まなかった。「文章に残すとなると、どこまで書いていいのか分からなくなった」日本弁護士連合会の元事務総長で、制度に詳しい明賀英樹弁護士は「何を話していいかが具体的に分からなければ、『何も語らないのが無難』と考えがちになる」と懸念すね。最高裁も昨年7月、裁判員が必要以上に自粛しないよう、守秘義務の説明を改めた。裁判員に配る資料には、「懲役〇年の刑に決まった」「被害者と被告の話が食い違い、同じ事件でも見方が違うなと思った」など、公開の法廷のやり取りや感想は話していいと明示し、「貴重な経験を周りの方々にもぜひお伝えください」と呼びかけるようになった。
法改正を要求へ 朝日新聞が748人の裁判員経験者に行ったアンケートでは、守秘義務の範囲について76%が「適切」と答え、「不適切」は17%だった。ただ、心理的なストレスや精神的な負担を「裁判中も今も感じている」と回答した人に限れば、守秘義務を「不適切」と捉える人は45%に上がる。小野さんも参加する「裁判員経験者ネットワーク」(東京)などは今月、評議の内容を原則として自由に話せるよう、裁判員法の改正を法務省や国会に求める予定だ。実現すれば「多数決で死刑になったが、違う意見もあった」などと明かせるようになる。経験者ネットの代表世話人として、100人以上の裁判員と交流してきた牧野茂弁護士はいう。「より良い制度にするには裁判員が経験を語り、その内容を検証するしかない。過度な守秘義務は社会的な損失だ」(岡本玄) =おわり

 

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