5月15日 裁判員10年見えた課題「4」

朝日新聞2019年5月13日26面:審理参加、「無断欠勤」扱い 辞退率上昇 企業側に不備も 東京都内の男性(49)は2011年11月、裁判員候補として裁判所からの呼び出し状を受け取った。「国民の義務。自分の役目を果たしたい」と思った。勤務していたソフトウェア会社の上司に相談すると、「休んで。有休にしてあげるよ」と言われ、強盗殺人事件の審理に参加した。営業先から受注した仕事は同僚に頼んだ。だが、16日間の審理を終えて戻ると、勤務記録時上は「無断欠勤」だった。営業先を失い、同僚が「勝手に休んだ分の仕事をやらされた」と言っていたことも知った。居づらくない、1ヵ月後に会社を辞めた。「裁判員自体はややって良かった。自分と別の考え方をする裁判員と議論することで視野が広がった」と男性は言う。だが、複雑な思いは残る。
雇用主への案内 裁判員は出頭義務が課され、事態が認められるのは70歳以上の人や学生などのケースを除くと、「やむを得ない場合」のみだ。しかし、辞退者は増えている。09年に53%だった辞退者は18年、67%を記録した。今年、神戸地裁であった殺人未遂事件では、候補者100人のうち77人は事前に事態が認められるなどして、選任手続きに出頭したのは23人。そこから検察と弁護士側が8人を外し、3人が当日の辞退を認められため、わずか12人から裁判員と補充裁判員が計8人選ばれた。被告の弁護人だった高山巌弁護士は「真に社会の構成に近い『市民』の感覚が反映できるのか」と疑問を投げかける。
辞退が増える理由の一つは、企業の制度不足だ。民間の「労務行政研究所」が昨年、全国の7739社に行った調査では、回答した440社のうち裁判員休暇があったのは56%。従業員300人未満の企業では約41%にとどまった。非正規雇用の場合は、特に難しい。パートを7日間休んで大阪地裁で殺人事件の審理をした女性(54)は「もっと長期なら、仕事を辞めなければいけなかったかもしれない」と話す。こうした状況を改善しようと、東京や大阪地裁では昨年から裁判員候補者への呼び出し状に、雇用主や上司に渡してもらうための書面を同封した。制度の意義を説明して協力を求める内容だが、休暇については、「ご配慮お願い申し上げます」という表現にとどまっている。「正当な理由がなく欠席した」候補者に10万円以下の過料を科すこともできるが、適用された例はない。朝日新聞が748人に行ったアンケートでは73%が「強制すべきでない」としたが、17%が「罰則を課してでも出席させるべきだ」と答えた。
経験し社長変化 従業員が裁判員を務めることで、企業側にメリットはないのか。大阪市のソフトウェア開発会社・メディア・エンタープライズの七條健一社長(48)は昨年秋、大阪地裁で殺人未遂事件の補充裁判員を経験したことで、考えが変わった。「法律を守らなければという意識が高まる。コンプライアンスが重視される今、従業員にもぜひ経験してほしい」という。昨年12には裁判官を講師に招き、制度を学ぶ社内研修を実施した。これまで、「従業員に休まれると代えが利かない」として消極的だった裁判員休暇の設立も検討している。白鷗大の平山真理教授(刑事訴訟法、刑事政策)は制度導入から時間がたって関心が低くなっているからこそ、同社のような取組に意義があると指摘する。その上で、市民の意識の変化に期待する。「刑法の性犯罪に関する規定が110年ぶりに改正され、厳罰化されたのは裁判員裁判の影響も大きかった。司法に『お客様』として加わっるのではなく、重要な決定に、主体的に関与するのだという意識を持って欲しい」(大貫聡子)

 

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