5月11日 裁判員10年 748人 経験者調査

朝日新聞2019年5月9日3面:上級審で覆る「不適切だ」42% 死刑多数決で決定「適切」54% プロの裁判官だけが行っていた刑事裁判の審理に、市民が加わるという歴史的な転換から10年。裁判員経験者は約9万人に上る。748人のアンケート回答からは、時間が経ったからこそ見える成果と課題が浮き彫りになった。裁判員制度の目的には、刑事裁判に市民感覚を反映することと併せ、司法をより身近にすることが挙げられている。今回のアンケートで、「裁判官時代と比べ、刑事裁判は身近なものになったと感じるか」という質問には70%が「感じる」と答え、「感じない」は21%にとどまった。看護師の50代女性は広島地裁で殺人事件を担当し、「裁判員一人一人が自分の意見を出し合い、量刑を決めた」と振り返る。判決後は「事件に関するニュースに目を向け、背景も考えるようになった」という。小学校教諭の40代女性(東京地裁)は「子どもたちを育てる仕事にプラスに働いている」と答えた。市民感覚については構造的な課題が残る。裁判員が加わるのは一審だけのため、そこで出た結論が確定するとは限らず、弁護側や検察側が不服として控訴した結果、プロの裁判官だけの判断で覆るケースもある。こうした例についてアンケートで「適切ではない」と答えたのは42%。一方、「分からない」と言う人が36%、「適切だ」も23%いた。アクセサリー製造の70代男性(東京地裁、殺人未遂事件)は「覆るのは構わない」としながら、「市民感覚を反映させるのが目的なら、上級審にも市民を参加せるべきでは」と提言し、少なくとも控訴があった場合は「裁判員にも知らせてほしい」と求めた。
 対象の事件 変更の是非は拮抗 裁判員裁判の対象になるのは「死刑か無期懲役がある罪」と「傷害致死や危険運転致死など、故意に人を死なせる罪」に限られる。この対象事件の是非については「現在のままでいい」が47%、「改めた方がいい」が44%で拮抗した。「改めた方がいい」と答えた329人に、除外すべき事件を複数回答で聞くと、最多は「死刑が想定される事件」(125人)だった。死刑も他の刑と同じ多数決で決まる仕組みについて、「適切」と評価したのは54%。29%は「不適切」と答え、そのうち8割近くが「3分の2の賛成」か「全員一致」を求めた。名古屋地裁で求刑通り無期懲役が言い渡された強姦殺人事件の審理に加わった会社員の60代男性は「判決後も死刑執行後も責任を一生背負うことになる。自分の人生が変わってしまうほどの負担かもしれない」と答えた。一方。対象事件に加えた方がいいと考えるのは、「政治家に関する事件」(194人)が最多だった。会社員の50代男性(東京地裁、殺人事件)は「政治家や官僚の汚職は国民が最も怒りを感じる案件で、国民の意見が反映されるべきだ」と主張した。市民だけで構成する検察審査会が、検察の不起訴処分を覆して強制起訴した事件を加えることも142人が支持した。
司法の教育「不十分」70% 刑事裁判には法律で定められた様々なルールがある。裁判に参加してみて「違和感を感じたルールがあるか」を聞くと、58%は「ない」と答えた。一方で、全体の17%が「黙秘権」、14%が「推定無罪」、12%が「犯罪を証明する責任は検察にある」を選んだ(複数回答可)。浜松市の浜名湖で2016年に2人の遺体が見つかった事件では、強盗殺人などの罪に問われた被告が静岡地裁の公判でほぼ全ての質問に「黙秘」と回答。裁判員を務めた農業の男性(47)は「当然の権利だと知って裁判に臨んだが、正直イラッとした」という。判決は死刑。「証拠から確信を持ってたので、黙秘の影響はなかった」というが、「裁判員を経験し、本当に必要な権利なのか疑問を持った」と振り返る。しかし、明記されている。推定無罪と検察の立証責任も刑事司法の大原則だ。法教育の充実は、裁判員裁判の運用のためにも、かねて指摘されてきた課題だ。アンケートで「刑事司法に関する学校教育は十分か」と問うと、「十分ではない」が70%に上り、「十分だ」は4%だけだった。会社員の50代女性は「基本的な知識が少ないまま裁判員をやり、結局、裁判官の意見に大いに左右されてしまった」と打ち明けた。(北沢拓也、阿部峻介)
 市民参加に意義と必要性 アンケート回答をどうみるか、裁判員制度の設計にも関わった四宮啓・国学院大法学部教授に聞いた。半数近くが裁判官との感覚の違いを感じたのは、市民参加の意義と必要性を示している。8割近くが判決に納得しているのも、市民感覚が反映されたと受け止めているのだろう。上級審で覆ることを不適切だと考える人が、適切だという人の倍近い4割いたことは、自分たちの結論に自信を持っている表れだ。上級審は専門家の感覚に安易に寄りかかっていないか、自省が必要だ。一方、黙秘権や推定無罪への違和感は、刑事弁護の立場からは衝撃だ。刑事裁判の基本原則に得心がいかないまま、裁判員に判断してもらうわけにはいかない。公正な裁判を保証するため、裁判官の説明は極めて重要で、自覚がほしい。学校教育の役割も大きい。制度を社会で支えるという観点からは、有給休暇を消化している人の多さにも気になる。特に中小企業に対する啓発に、裁判所はさらに力を入れるべきだ。守秘義務の範囲を適切という人が7割を超えたのは、予想以上に高い数字だ。ただ。「他人のプライバシーは守る」といった一般常識が働いているのであって、経験を共有できる環境を整えてほしいという潜在的な思いは強いと思う。(聞き手・岡本玄)

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