5月11日 新聞を読んで 大串尚代

東京新聞2018年5月6日5面:傍観するだけではいけない ちょうど1年ほど前、ネットで紹介されていた写真集『わたしたちの神父様は写真家』(図書出版ヌンピッ)を入手した。約90年前に、現在は北朝鮮の領域に住む人々の日常を、宣教のためその地にいた神父たちが撮影した写真をまとめたものだ。白黒写真におさめられた素朴な毎日の風景を見ながら、この人たちの子孫はいま北と南のどちらにいるのだろうかと思いをはせた。
また、昨年末に刊行された写真家・菱田雄介さんの『border/korea』(リブロアルテ)も心に残る一冊だった。韓国と北朝鮮で撮影された類似したモチーフの写真(少女、桜、新生児、避暑地など)がそれぞれ左右のページに配置され、たった一本の国境線によって隔てられた二つの国の驚くほどの近似性が明らかになる。
4月27日に行われた南北首脳会談に関する一連の記事を興味深く読んだ。注目されていた北朝鮮の非核化については、28日朝刊1面で大きく報道された。同日夕刊1面では、北朝鮮でも非核化が報道されていると報じられた。北朝鮮の核開発に伴う不穏な雰囲気を吹き飛ばすような南北の融和ムードが印象的だった。
会談に先立って東京新聞では、22日朝刊から「激動朝鮮半島」を3回にわたって掲載し、さらに24日朝刊5面の社説「非核化で立場の接近図れ」では、朝鮮半島が南北に分断された経緯をきわめて簡素にまとめている。「植民地支配が分断の遠因となり、大国の利害がそれを固定化してしまうという『悲劇』だった」という社説の指摘は胸に刻まねばならない。この会談を受けて日本はどうすべきなのか。28日朝刊3面「北、今回は本気の可能性」で磯崎敦仁さんは「米韓が対話に臨む中、日本も建設的な提案をするべきだ」と述べる。また、同日23面「こちら特報部」の北朝鮮による「脅威をあおって(安倍政権が)政権浮揚を図る手段はもう通用しない」「・・それでも支持率が下がらないのかどうか。国民自身が問われている」という鵜飼哲さんの見解からは、今回の会談を隣国のこととして傍観するだけではいけないことを示している。
ところで、傍観者のままでいてはいけない、ということは、現在いたるところで問題となっているセクシャルハラスメントにも当てはまろう。24日朝刊27面の「本紙女性記者の経験は」で、思い出すのもつらいであろう体験を語ってくださった記者の方々に敬意を表したい。セクハラをされた側が受けるおぞましい感覚、自己嫌悪、自分を「人」として見られていないことへの屈辱。経験の有無にかかわらず、傍観者のままで終わってはいけないと、自分にも言い聞かせる。
(慶応大文化部教授) *この批評は最終版を基にしています。

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