4月5日 証人喚問でみえたもの

朝日新聞2018年3月28日19面:田原総一郎さん ジャーナリスト 34年生まれ。「朝まで生テレビ!」などテレビ討論、情報番組の司会で長年活躍。著書多数。 沈黙と否定異様さに疑念 テレビの怖さは情報が言葉以上に、表情、声音、身ぶりなど全てが情報として視聴者に届けられるのです。とりわけライブで流れる証人喚問はその要素が強く出ます。NHKや民放各局が流した佐川宜寿・前国税庁長官の喚問中継を見た国民は、「この人は事実を何か隠している」と感じたのではないでしょうか。映像の中の彼がそれを雄弁に伝えていたと思います。証言に立った佐川氏の表情を見て、二重三重にもよろいを身につけ「完全武装」でのぞんでいるような印象を受けました。これ以上、身をおいた官僚の世界からも孤立したくないし、官邸の信頼も失いたくない。そのためにどう答えるべきか。戦略を固め、そこから逸脱しないという覚悟を決めた表情に見えました。
その通り、証言の間も、これまでの国会証人喚問の歴史で時折見られたような、動揺したり、困惑したりする姿を見せることはありませんでした。「刑事訴追を受ける恐れがあり、答弁を差し控えさせていただきたい」を連発し、何ひとつ明らかにしないまま終えました。ただ、「訴追が理由ではなく、都合の悪いことはしゃべらないのではないか」と追及されるほど沈黙を貫いたなかで、安倍首相や昭恵婦人、官邸などの指示や関与について、その根拠も示さず、断定的に否定したのは異様に感じました。。それもあって、結局その場しのぐという国会での短期的戦略は成功したかもしれませんが、意図とは逆に、国民の間では、土地売買や決裁文書改ざんに、官邸の何らかの関与があったのかもしれない、という疑惑を深めてしまったと思います。彼にとってはマイナスの効果です。安倍政権はこれで幕引きをはかりたいでしょうが、自民党の中でも今日で終わりと考える人は少ないでしょう。
朝日新聞が決裁文書の改ざんを報じて以降、テレビのワイドショーや情報番組はこのネタに時間をさき、大きく取り上げてきました。国民の関心が高く、視聴率が稼げるからです。各社の世論調査でも、安倍政権の支持率は急落し、自民党への信頼も揺らいでいます。昭恵さんの国会招致を望む声も少なくありません。小泉進次郎氏は「平成の政治史に残る大きな事件」とまで語るなど、党内から批判も強くなってきています。
そんな中で、証人喚問を見て国民がいっそう深めた疑念が政権の支持率をさらに下げ、自民党への信頼も揺らぎ続けるような状態になるなら、これ以上党にダメージを与えず不信感を取り除くだめには何をすべきか、という動きが出てくるでしょう。私は、昭恵さんの国会招致などが現実味を帯びてきてもおかしくないと思います。
(聞き手・中島哲郎)


野村修也さん 中央大学法科大学院教授 62年生まれ。弁護士。専門は企業統治。福島原発事故の「国会事故調査委員会」の委員を務めた。政治的演出より真相究明 今回の証人喚問は、政治的思惑が先行していた気がします。与党側は財務省理財局の責任であると印象づけるのに熱心で、肝心の動機については、証言拒否をかわして切り込む工夫が見られませんでした。野党側は首相を辞任に追い込む材料探しに躍起で、焦点が定まりませんでした。どちらも政治的演出、パフォーマンスが先に立った形です。
国民の期待は、与野党の政争ではなく、真相究明です。そのためには、議員の側に国政調査権を行使しているという自覚と責任が必要です。国政調査権の手段は、何も証人喚問だけに限られません。憲法には「証人の出頭、証言、記録の提出を要求することができる」と定められています。真相の究明にはまずは記録を提出させ分析する作業が不可欠ですが、地味な活動なので、政治家の趣旨が動きにくいのが実情です。
それだけに、第三者による調査が必要だとして、原発事故の際の「国会事故調査委員会」(国会事故調)のようなものを作るべきだとの意見も聞かれます。しかし、国会事故調委員だった私は、それには否定的です。設置にはかなりの時間がかかるだけでなく、与野党の政治闘争に利用される懸念があるからです。
また、原発事故の場合は、科学技術の専門家が、調査にあたる必要がありました。しかし、森友学園との国有地取引にからむ文章を、誰の指示で、誰が書き換えたか、という経緯を解明するだけならは、場合によっては検察の捜査を待てば済む話です。むしろ、最終的には、官僚が官邸の意向を忖度していたのかどうかや、政治家の責任が争点となります。首相や大臣の政治責任はまさに政治が決着させるべき事柄です。だからこそ、今回、国会議員が地道な調査を続け、調査結果にも基づいて、政治責任をどうするのか、という議論につなげていく必要があります。それにしても最近は、財務省に限らず、厚生労働省の不適切なデータ問題など、行政の信頼を揺るがす事態が相次いでいます。与野党は政治的な駆け引きばかり没頭するのではなく、国会による行政監視を見直すべき時がきていると思います。
国会の下の常設の監視組織を設ける北欧型のオブズマンが参考になります。国会がオブズマンを任命し、その下に数十人から数百人のスタッフを置く。今は行政組織にすぎない会計監査院も、米国の政府監査院(GAO)のように国会の下に統合する構想です。また、いくつかの省庁にあるコンプライアンス(法令や社会規範の順守)の部署を全省庁に設けて、連携を図れば行政への強い牽制になるはずです。急げば、国会事故調のような委員会より早くできるのではないでしょうか。(聞き手・・三輪さち子)


片山善博さん 元総務相 51年生まれ。早稲田大学教授。自治省を経て、鳥取県知事を務めた。著書に「民主主義を立て直す」など。政権が招いた事態 行政府の元官僚を、国会が証人喚問するのは、異例です。しかし今回は仕方なかったと思います。佐川氏は、国会で虚偽の答弁をしていた可能性が高い。公文書改ざんへの関与も疑われる。立法府が証人喚問という手段をとるのはやむえないでしょう。今回の証人喚問で、佐川氏が「刑事訴追の恐れがあるから答弁を控えたい」を連発しましたが、改ざん前の書類をいつ見たかなど、刑事訴追と関係ないことまで証言拒否しているように見えました。
首相や夫人の関与についても、与党議員の「指示はありませんでしたね」という質問に「ございません」と証言。そのやりとりからは指示以外の働きかけの有無はわからない。非常に巧妙な出来レースのような印象を受けました。不明な部分が多いままである以上、今後、証人喚問をもっと広く行い、問題の解明を進めるべきです。真実を明らかにするための作業工程と位置づけ、いろいろな人を呼べばいい。
一つ問題なのは、証人喚問が、降り調べのようなイメージを持たれていることです。呼ばれるのは証人であり、犯罪被疑者ではない。証人喚問されただけで、悪いことをしたかのような印象を持つことを私たちも改めるべきです。今回の佐川氏の証人喚問は、他の官僚に影響を与えるという別の側面があると思います。官僚たちは「ああはなりたくない」と思うでしょう。どんなことがあっても国会でうそはつかない、文書の改ざんはしない、という意識変化をもたらす効果はある。
その一方で、事なかれ主義の人も増えるでしょう。官邸に逆らえば飛ばされるけれど、迎合しても何かあればつるしあげられる。なるべく何もしないほうが得だとなってしまう。官僚は優秀な人材の集まりですが、最近の雰囲気はみな及び腰で、投げやりになっていると聞きます。国民にとっても、政権にとっても大きな損失です。政治主導は、もともと官僚主導に対するアンチテーゼでした。国民の信託を受けた政治が、国民の利益のために官僚を従わせるというのは間違っていない。ところがいまは、政権擁護や、安倍首相や周辺が好む政策への同調があまりにも強すぎる。官邸に反論したり、別の選択肢を示したりするだけで、にらまれ、冷遇される。最近、霞が関の人と話すと、委縮し、言いたいことが言えない感じがします。政治主導というより、政治支配になっている。
これは、自民党というより安倍政権の体質が大きい。霞が関をこうしたかったんですか、と安倍首相に聞いてみたい。官僚にのびのびと仕事をさせ、丁寧に合意形成するのが本来のあり方です。体質改善が必要だと思います。(聞き手 編集委員・尾沢智史)

朝日新聞ASAの伸光堂西部販売 森林文化協会

ご予約・お問い合わせはお気軽に

Tel0120-740-276

〒352-0011 埼玉県新座市野火止8-14-29

ページトップへ戻る