4月30日 あすを探るメディア 津田大介

朝日新聞2018年4月26日17面:サイト遮断の禍根と懸念 国内のインターネット接続事業者(ISP)が、特定のウェブサイトへのアクセスを遮断するサイトブロッキング(接続遮断)問題が注目を集めている。政府は13日の閣僚会議で、ISPに対してマンガなどの海賊版が大量掲載された3サイトへのブロッキングを促す緊急対策を決定。これを受け、23日には国内最大の通信事業者であるNTTグループがブロッキングの実施を決定した。
出版社は昨夏以降の海賊版サイト利用者急増で危機感を募らせ、対策を強く訴えていた。今回の政府方針は、その状況を受けてのものだ。だが、この方針決定は、適正な法手続きをとらずに政府の判断で強引に進めるやり方だとして、多くの法曹関係者や実務家が反対の声を上げた。筆者が代表理事を務めるインターネットユーザー協会も主婦連合会と共同で反対声明を出している。
ISPがブロッキングを行うには海賊版利用者だけでなく、どのサイトにアクセスしているのかすべてのユーザーから情報を取得する必要がある。しかしこの情報は、憲法21条で保障された「通信の秘密」に該当する。通信をつなぐ以外の目的で使うことは、電気通信事業法でも禁止されている。ブロッキングが通信の秘密を侵害すると認められれば、ISPが政府の要請に応えてブロッキングを行うことは犯罪になるため、これを刑法37条の「緊急避難」として違法性を阻却、無罪にしようというのが政府の考え方だ。
実は、緊急避難の倫理を使ったブロッキングには先例がある。日本では2011年以降、児童ポルノを扱うサイトへの接続が遮断されているのだ。ただしこれは、数年間にわたる議論の末、被害児童の人権を守るほかの手段がないとして、やむ得ず認められたもの。当時、著作権侵害もブロッキング対象になるかどうか政府内で議論になったが、緊急避難には該当せず、ブロッキングは認められないとの判断がくだされた。
名指しされた3サイトは現在、事実上サービスを停止している。もはや急迫な危険・危難は存在しないにもかかわらず、NTTグループはブロッキングを決定した。今回、政府が直接ISPに対して遮断措置を要請したわけではないが、あくまでそれは形式上の話。方針決定後、迅速に同社が動いた事実は重い。政府が民間企業に対して「忖度」を求め、国内最大の通信事業者が速やかに従ったーこのことは通信業界全体に大きな禍根を残した。
政府は次期通常国会を目指しブロッキングの法的根拠整備を行う予定だが、それまでに本来「例外措置」である緊急避難が、違法有害情報一般にまで拡大する懸念は消えない。法整備の過程で著作権侵害がサイトブロッキング対象とされれば、より重い人格侵害である名誉棄損やプライバシー侵害などにも認めないわけにはいかなくなると指摘する声もある。結果として、表現の自由や知る権利の縮小を招きかねない。
その点から考えれば、今後この問題は「誰が」「どのような基準で」「どう行うのか」ということがポイントになる。政府はISPと出版社などの権利者が共同で対応を進めるタスクフォース(TF)を作り、同TFで法整備のありかたやブロッキング対象を決める方針のようだが、憲法に明記された人権に関わる問題である以上、TFには憲法学者や消費者団体など、幅広い利害関係者を含める必要がある。国民の重要な権利を制約するブロッキングが本当に可能だとしてもどのように民主的な手続きを踏むのかという論点は特定秘密保護法や共謀罪の制定過程ともつながる話だ。
今回つくられるTFが、一部の利害関係者の意向をくんで水面下でブロック対象を決めるものであってはならない。公開の場で国民的議論を促すような存在でなければ、我が国の表現の自由や知る権利は、永遠に脅かされることになるだろう。(つだ・だいすけ 1973年生まれ。ジャーナリスト・早稲田大学教授)

朝日新聞ASAの伸光堂西部販売 森林文化協会

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