4月3日 見張り塔から メディアの今

東京新聞2019年3月28日4面:ジャーナリスト・津田大介さん ファクトチェック 出版・書店問われるモラル 昨年10月に発売され、現在19万部を超えるベストセラーノンフィクション新書がある。堤末果氏の『日本が売られる』だ。内容的にも非常に興味深い書籍で、本紙読者でも読まれた方は多いだろう。今も書店の売り上げランキング上位に位置する同書だが、その内容に疑問を呈する声もネットを中心に上がり始めている。その代表が、海外からの移住者を支援する任意団体「移住者と連携する全国ネットワーク(移住連)」が3月11日に公開した「堤末果著『日本が売られる』についてのファクトチェックを幻冬舎に送付しました」という記事だ。移住連が問題にしているのは、医療問題について触れた章の記述。本文中に書かれている「医療目的を隠して来日し、国民健康保険に加入して高額の治療を受けにくる外国人が急増している」「2012年に民主党政権は、それまで1年だった国保の加入条件を大幅に緩め、たった3ヵ月間滞在すれば、外国人でも国保に加入できるよう、法律を変えてしまった」「在日外国人の多い地域では、治療費を払わず姿を消す患者も後を絶たず、逃げられた医療機関には回収するすべがない」といった記述に対して、丁寧に論拠を示しながら誤りを指摘いしている。
同書の発売元。幻冬舎は、百田尚樹氏の『日本国紀』発売後、ネットや歴史学者たちからさまざまなファクトの誤りや、文献からの無断盗用が指摘されたものの、謝罪や訂正、回収などの措置は行わず、増刷時にこっそり修正するという、出版社にあるまじき対応を行ってきた。3月27日現在、幻冬舎並びに著者はこの指摘に対する硬式見解を明らかにしておらず、内容の修正も行っていないようだ。事実と異なる記述で外国人労働者に対する偏見を助長させたのだとしたら、問題は非常に深刻である。同社には一刻も早くこの指摘に対する公式な声明を発表することを望みたい。
書店でこのような扇動的な書物がベストセラーになる背景には、書店側や取次の事情もあるようだ。これを書店の立場からわかりやすく解説したのがビジネスインサイダージャパンで3月3日に掲載された「なぜ書店にヘイト本があふれるのか。理不尽な仕組みに声をあげた1人の書店主」 記事の著者によれば、店の規模の大きさによって自動的にランクが決められ、配本される冊数が決まっていまう「ランク配本」と、書籍の問屋にあたる取次店が、書店が注文していない本を勝手に見計らって送ってくる「見計らい本制度」が、中小書店に売りたくもないヘイト本を販売させる仕組みになっているという。ただでさえベストセラーが少なくなっている昨今、注目されるベストセラーは自動的に書店に配本されるようになる。売り上げを確保したい出版社の思惑に加えて、取次を含めた書店流通の仕組みが大型書店から中小書店までヘイト本を並べる構造をつくっている。そこかでこのスパイラルを断ち切らない限り、書店に扇動的な本ばかりが置かれることは明白だ。出版業界、そして書店業界のモラルが問われている。

朝日新聞ASAの伸光堂西部販売 森林文化協会

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