4月29日 池上彰の新聞ななめ読み スリランカのテロ

朝日新聞2019年4月26日17面:犯行組織像どう書くか スリランカでの爆弾テロは衝撃でした。インド洋に浮かぶスリランカといえば、「平和な島」のイメージが強かったからです。私が勤務する東京工業大学の学内には「スリランカ短期留学」のポスターが貼り出されていましたが、事件後、「中止」の知らせが貼られました。最近のスリランカは、どんあ情勢だったのか。朝日は4月22日付朝刊の2面で、スリランカについて次のような解説を掲載しています。
<仏教徒が多数派シンハラ人を中心とする政府軍と、ヒンドゥー教徒が多い少数派タミル人の反政府組織「タミル・イーラム解放の虎(LTTE)が対立、LTTEが北東部の分離独立を求めて83年に内戦になった。大統領が暗殺されるなど混乱が続いたが、2009年5月に内戦が終結した> この通りですが、できればシンハラ人優遇政策に少数派タミル人が反発して内戦に至ったことや、「内戦が終結した」とはいえ、実際には政府軍の大規模な軍事作戦でタミル人の一般人に大きな被害を出しながらLTTEを破滅させた事実にまで触れてほしいところでした。事件が起きたのは4月21日。日本のメディアはどこもスリランカに支局を置いていないため、記者が現場に到着するまでの間は、外電や現地への電話取材で原稿を書くしかありません。歯がゆいことです。
朝日の場合、22日付朝刊ではAP通信やAFP通信、ニューヨーク・タイムズの取材などを材料に記事を組み立てています。この段階では、いったいどこの組織が事件を起こしたのか、皆目見当がつかなかったのですが、読売新聞は、同日付朝刊で、仏教徒の犯行の可能性もあるとにおわせています。それが、次の記事です。<スリランカでは近年、仏教徒の過激派のイスラム教徒が活性化しており、少数派のイスラム教徒が襲撃される事件が相次いでいる。(中略)仏教徒には少数派を排除したい思惑が強いとみられ、今回はキリスト教徒が標的にされた可能性も否定できない。実際、キリスト教徒への迫害は起きており、(中略)今年に入ってからも、仏教僧がキリスト教会の日曜礼拝を妨害しようとするようなことがあったという> 随分と思い切った文章です。これを読んだ読者は、「仏教過激派による爆弾テロか」と思い込むかもしれません。しかし、この時点で仏教徒によるテロだと推測できる材料はありません。もし私がデスクだったら、書いた記者に、「ちょっと待て。仏教過激派の可能性もあるだろうから、ここまで書き込むのはやめておけ」と指示したでしょう。
一方、アサヒは同日付朝刊で、犯行に関与した可能性のある団体名に早くも触れています。<警察は事件の約10日前から、国内のイスラム過激派組織「ナショナル・タウヒード・ジャマート」を警戒。無名の団体で、シリアからの帰国者などが参加していたとの報道もあるが、事件との関係は不明だ> この時点では「事件との関係は不明だ」と用心深い筆到になっていますが、結局、スリランカ政府がこの団体の犯行だと発表しました。では、この団体はどんな組織なのか。過激派組織「イスラム国(IS)」と関係の深い過激派組織のようですが、組織名の意味がよくわかりません。朝日や毎日は、この団体の名称には触れるものの、どんな意味かの解説がありません。この点、読売は当初の解説記事で勇み足がありましたが、24日付朝刊では1㌻の半分以上を使って解説しています。
<組織名に使われているタウフィートはアラビア語で「神が唯一と信じること」、ジャマアットは「団体」を意味する> 朝日は「ジャマート」ですが、読売は「ジャマアット」を使用しています。ここは呼び名が定着していないにせよ、読売の記事で組織のイメージが浮かびます。朝日は早々と固有名詞を出しただけに、せめて団体名を解説してほしいところでした。 ◇東京本社発行の最終版を基にしています。

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