4月28日 ジェンダー対立 ジャーナリスト 津田大介

朝日新聞2019年4月25日15面:つだ・だいすけ 1973年生まれ。早稲田大学教授。著書に『情報戦争を生き抜く』など。8月開催の国際芸術祭「あいちトリエンナーレ2019」の芸術監督も務める。=西岡臣撮影 意識の溝 構造から変えよ 男女同数の候補者擁立を政党に求める候補者男女均等法(日本版パリテ法)が施行されて初めての統一地方選が終わった。女性の政治参加は着実に進んでいる一方で、統計で見ると「均等」には程遠い状況が見えてくる。各政党とも統一地方選前半の女性候補割合は5割を切っており、与党自民党に至っては4.9%の女性候補者しか立てていない。法律ができても女性が立候補しにくいのは、現場に長時間労働を前提とする昔ながらの選挙スタイルが定着し、有権者に「政治は男性のもの」「子育ては女性がするもの」という性的役割分業の意識が強く残っているからだ①。女性候補者に対して一票の力を振りかざし、セクハラやモラハラを行う男性有権者からの「票ハラ」も大きな壁になっている。男性モデルが規範となっている社会では、女性の問題は周辺的で特殊な問題として片付けられてしまいがちと語るのは三浦まり②。女性議員の増加は、性暴力や家事・育児分担の不均衡など、国会で後回しにされてきた問題を普遍的な政治課題にする効果があるという。こうした構造的な問題を大学1年生にもわかる平易な言葉で問題提起したのが上野千鶴子だ。上野は東京大学の入学式で、女子学生のみ直面する環境的な性差別や東大の男子学生が5人が2016年に起こした強制わいせつ事件を例に挙げ、「がんばってもそれが公正に報われない社会があなたたちを待っています」「がんばったら報われるとあなたがたが思えることそのものが、あなたがかたの努力の成果ではなく、環境のおかげ」という祝辞を述べた③。パンチの利いたこの”祝いの言葉”は、瞬く間にネット上に広まり、地上波のワイドショーで取り上げられるまでの「現象」となった。
上野のスピーチに多くの共感が集まったのは、現実の女性抑圧事例に呼応しているからだろう。アイドルグループNGT48のメンバーで、昨年12月、自宅に押しかけた男性2人から暴行被害を受け、その裏側にある事情をネットで告発した山口真帆が21日、新潟市内の公演でグループからの”卒業”を表明した。被害者である山口が詰め腹を切らされた不条理な構図に多くの批判が集まっている。
女性にとって不可解な性犯罪事件の無罪判決も相次いでいる④.女性の意思に反した性交だと裁判官が認定してるにもかかわらず「女性が許容していると男性が勘違い」「抵抗が著しく困難だったとは言えない」「被害者の供述が信用できない」というのがその理由だ。専門家は、一見理不尽に見える判決が続いた背景に17年の刑法性犯罪規定改定の議論があると見る⓹。
警察や検察が刑法の改定に合わせた捜査・検挙・起訴を行うようになった一方で、裁判官の意識が変化しておらず、そのギャップがこうした判決を生んでいるという。このギャップは、結果的に女性と法律家の溝も深めている。11日夜、東京駅近くの路上で一連の判決に抗議するスタンディング・デモが行われ、多くの女性が集まったが、ツイッター上ではこうした動きに対して弁護士たちから批判が寄せられた。無罪判決への過度な抗議や、裁判官への個人攻撃は司法の独立や、推定無罪の原則を否定し、冤罪事件の弁護を困難にする側面があるからだ。問題は弁護士による批判の一部に、デモ参加者に対する苛烈な中傷があることだ⑥。法律や運用に不備があり、道義的責任が明らかであるからこそ、デモに集まった女性たちは抗議しているのであって、彼女たちの目線の先は、こうした判決を生み出す構造そのものに向いている。男性弁護士から「法律の現場を知らない女性たちが深く考えずに怒っている」と揶揄する意見が出るところに、この社会の根深いジェンダーバイアスが現れている。
小宮友根は近年企業CMやフィクションが描く女性像がSNS上で「ジェンダー問題」として炎上する現象について分析している⑦。小宮は、そもそも表象を現実の活動の一部とした上で、問題は画一的なジェンダー表現を見たことによる「影響の有無」によって受け取る側の意味が変わることにある、とする。具体例を挙げよう。家事育児などの無償ケア労働を主に女性が担っているという意識のある人が見れば、ワンオペ育児を礼賛しているかのように見えるオムツのCMは、抑圧の上塗りあるいは再生産に見える。一方で、そのような「意味的つながりを感じない人」が見ると、彼らは単に「表現と現実は違う」「このCMの一体どこに問題が?」と感じてしまうということだ。上野千鶴子の祝辞は絶賛される一方で、多くの反発も呼んだ。性犯罪判決に抗議する女性と法律家の対立も、「累積的な問題としての経験」の有無がもたらす”ズレ”であると考えれば、問題の本質が見えてくる。
「意味的つながりを感じない人」に真正面から問題を訴えかけても、理解される可能性は低い。彼らを責めても分断が加速するだけで、問題は解決しない。人々の意識を急速に変えることは難しいが、構造が変われば人々の意識も徐々に変わる。「がんばったらそれが公正に報われる」社会をつくるには、意思決定の場に多様なマイノリティーを増やすしかない。我々は「累積的な問題としての経験」を公共善に昇華し、構造を変えるアファーマティブ・アクション(積極的差別是正措置)を進める時期に来ている。
①深澤友紀「法律だけじゃ何も変わらない」(AERA4月15日号) ②三浦まり「女性議員『後進国』日本一『日本版パリテ法』で何が変わるのか」 ③上野千鶴子「平成31年度東京大学学部入学式 祝辞」 ④河原理子「性暴力 無罪判決 続き疑問」(朝日新聞東京本社版4月17日朝刊) ⑤らーめん「テキーラで泥酔させられた女性と・・性犯罪で不可解な無罪判決が相次ぐのはなぜか」(文春オンライン) ⑥「#準強姦無罪判決 について一般に『酷い発言をした弁護士は本当にいたのか?』『弁護士の方々は皆丁寧に説明していただけでは?』事実はこうだった」 ⑦小宮友根「表現はなぜフェミニズムの問題になるのか」(世界5月号)

朝日新聞ASAの伸光堂西部販売 森林文化協会

ご予約・お問い合わせはお気軽に

Tel0120-740-276

〒352-0011 埼玉県新座市野火止8-14-29

ページトップへ戻る