4月26日 萩原健一さんを悼む 脚本家・倉本聰さん

朝日新聞2019年4月23日35面:特異な観察眼の「はみ出し者」 ショーケン(萩原健一)と初めて仕事をしたのは、NHK大河ドラマ「勝海舟」(1974年)の岡田以蔵役でした。その時彼は「坂本龍馬にほれているゲイの感じでやってみたい」と提案してきた。「不思議な発想をする男だな」と。何をやるのかと思っていると、以蔵が龍馬の着物を繕うシーンで、昔のお年寄りがよくしていたように、縫い針を髪の毛の中にちょいちょい入れて髪の脂をつけるしぐさをしてみせた。龍馬への愛情をこんなアクションで表現するのかと驚いたことを覚えています。田舎から出てきた若い板前の成長を描いた「前略おふくろ様」(75年)は、彼の指名で脚本を担当することになった作品です。調理場の後片付けでふきんを絞って「パーン」と広げて干すといった何げない一連の所作が実にうまい。普通の人にはない観察眼を持っていて、生活感をつかむのがとても巧みだった。それを直感的に演じるひらめきは天才的でした。勝新太郎によく似ていましたね。「前略~」は、アウトローの役が多かったショーケンのイメージを変えたといわれます。アウトローは自分が一番だと思っているけれど、本当に輝くのは尊敬できる存在を持った人間なんです。映画の高倉健が光っているのは、親分など頭の上がらない人が出てくるから。「前略~」でも、梅宮辰夫や八千草薫、北林栄といった一目置かれる存在を配したことで、ショーケンに新しい輝きが生まれました。脚本家と演出家、役者がせりふをどう読むか議論して脚本をすり合わせる「ホン(本)読み」でも、彼はいろんなアイデアを出してきた。それが大体正しい。こちらの意見も素直に受け止めるし、本当に面白かった。出演者もベテランから若手まで互いにリスペクトしあい、とてもうまくいった現場でした。一方で彼には飽きっぽいというか、欲望に忠実に行動してしまう面があった。本能的なものなんでしょうね。「前略~」でも終盤には現場で様々なトラブルがあったと後に知りました。薬物の不祥事などで芸能界を干されていたところ、復帰作のドラマを一緒にやったときには、色んなところで彼が僕を批判するようになった。何に怒っていたのか、今もってわからないのだけれど、その後は疎遠になりました。
彼が亡くなって桃井かおりがショーケンを「可愛くていけない魅力的生き者」だと追悼するコメントを出しましたが、まさにその通りなんですね。役者として天才的だけれど、人としてはいろいろよくない。ただ、ショーケンが表舞台から遠ざかったのは日本の文化を成立させた「旦那」と「職人・芸人」の関係がなくなったことも影響しているかも知れない。金を出すだけの「タニマチ」ではなく、技や芸を目利きできるのが「旦那」。かつては、たとえ性格や行動に問題があっても、確かな技や芸を持っていれば認めるし、職人の側も応えるーそんな関係がありました。自分も「旦那」でありたいと思ってきましたが、いつからそんな存在は消えていしまった。70年代に出てきたショーケン、かおり、松田優作ら同世代のギラギラした若い役者たちには、明らかに上の世代とはちがった「はみ出し者」の輝きがありました。役者としての力がある彼らを受け止める力量を持った制作側の人間もだんだんいなくなった。芝居がわかっている者は一握り、タレントばかりになってしまった。ショーケンの死は、そんな時代を象徴しているように感じます。=敬称略 (聞き手・山内浩司)

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