4月20日 多事奏諭 編集委員 原真人

朝日新聞4月17日15面:世界経済に暗雲「永久緩和」という思考停止 10年好況にわいた世界経済に暗雲が漂ってきた。火ダネは、いくつもある。世界の経済成長の支え役におどり出た中国だが債務や設備の過剰という構造問題を抱え、不動産市場ではバブル崩壊が懸念されている。その中国と貿易戦争をはじめた米国の経済も急速に色あせはじめている。企業や家計の借金の山はリーマン・ショック時を上回る規模だ。最高値圏の株価がいつ崩れるかと市場が気をもむ日々が続く。欧州は、さらにやっかいだ。英国の欧州連合(EU)離脱問題が混乱のタネだが、もっと心配されているのはイタリアの債務危機、金融危機だ。やせてもかれても主要7カ国(G7)の一角が破裂しようものなら、震度はギリシャ危機の比ではない。
3年前、安倍晋三首相は主要国サミットで「リーマン級の世界経済危機が迫っている」という趣旨の説明をして首脳たちの失笑を買った。実際は世界同時好況に向かっていたところだ。この時は選挙対策のために消費増税を延期しようという意図が透けてみえた。そして、こんどは本当の危機が近づくタイミングで6月に大阪G20サミットが開かれる。どこか既視感のある風景だ。
いま不幸にも危機が起きたら、最も苦しいのは日本になるかもしれない。内閣府は今年1月、景気拡大が戦後最長の6年超になった可能性があると発表した。この好況のもとで日本銀行は一度も金融を引き締めなかった。企業業績や雇用が絶好調になっても緩和の手をゆるめず、むしろあの手この手で強化してきた。その日銀に次の危機で有効な緩和手段は残されていない。対照的に、米欧の中央銀行はここ数年、超金融緩和からの出口戦略に取り組んできた。米連邦準備制度理事会(FRB)は段階的にゼロから2%超まで利上げもした。最近はトランプ大統領の横やりや市場の動揺で利上げを中断したものの、いざというときに備えて正常化を急いできた姿勢は、中央銀行として評価すべきものだった。だが「危機が来たら、そんなFRBの努力もムダになる」と日銀幹部は言う。2%くらいの利下げでは危機下での緩和効果は限られ、日銀とそう大差はない。逆に引き締めに動いた米欧の中銀は「危機を起こした戦犯」と批判を浴びるだろうが、緩和を続けてきた日銀だけは批判を免れるー。
いま日銀内には、そんなゆがんだ思惑が渦まく。ゼロ金利解除や量的緩和解除で、政治から厳しい批判におらされた過去のトラウマがあるからだ。しかし、景気がいいときも悪いときも緩和をやめないなら、それはもはや「永久緩和」と言わざるをえない。金融でカンフル剤を打ち続ければ、政府も、企業や家計も借金づけになる。そうなったら、かえって経済の新陳代謝が進まず、長期停滞が固定化してしまわないだろうか。
「アベノミクスはもうやめて、金利を引き上げたほうが経済はずっと良くなる」そんな大胆な主張をするのは経営コンサルタントの大前研一氏である。いわく、この30年間で日本の個人金融資産は500兆円積み上がり、1800兆円になった。それでも豊かさの実感がわかないのは死に金いなっているのだ。将来不安があるから、だれも使おうとしない。ゼロ金利、マイナス金利のままでは年金や保険のように、金利あってこその社会基盤が次第にこわれていく。これも、人々の将来不安をかきたてる要因かもしれない。「1800兆円に1%の金利がつけば、18兆円の金利収入が生まれる。国民に盆と正月がいっぺんに来る」この大前プランを暴論とみるか、それとも「永久緩和」のあり地獄から脱するための現実的な提言と受け取るか。私は後者に傾いている。「金融緩和景気にプラス」という思考停止から、いちど地涌になっていたほうがいいかもしれない。

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