4月17日 巨大噴火「4」

朝日新聞2019年4月11日夕刊9面:新しい文化を生むチャンス 宮崎県都城市は、霧島山のふもとに広がる盆地の街だ。市の教育委員会文化財課で、ばらばらのかつらをつなぎあわせた土器や石器を見せてもらった。せっけんのような形の石は平たい石皿の上でどんぐりなどをすりつぶす道具だ。縄文人はどんぐりの粉を加工して主食にしていたという。「巨大噴火の影響で森林がダメージを受け、どんぐりが採れなくなったのかもしれません」こう話す課長の桑畑光博(55)は、鹿児島大で考古学を学び、噴火が縄文人に与えた影響に興味をもった。約7300年前の鬼界カルデラの巨大噴火で九州の縄文文化は断絶したという説があるが、そんなに単純ではないのではー。仕事のかたわらこつこつと研究を続け、地域によって噴火の影響に差があることを論文にまとめ、九州大で博士号を取得した。
7300年前に積もった火山灰が30㌢未満の九州中・北部の遺跡で噴火前後の土器タイプを調べ、生活が継続したようだと示した。火砕流が到達した火口から半径約80㌔の範囲は壊滅的な影響を受けた。火口に近い屋久島は噴火後約千年、海をこえて火砕流が到達した大隅半島や薩摩半島の南部は約300年、集落ができなかった。火砕流が到達しなくても、降った火山灰が30㌢以上積った鹿児島県北部、宮崎県、熊本県南端部では、一時的に人は移住せざるをえなかっただろう。人が戻った鹿児島県の遺跡で道具の割合を調べると、どんぐりをすりつぶす石器が減り、狩猟用の石器が増える傾向があったとこを桑畑は突き止め、食料が変化したと推定した。「状況に応じて移動することができる狩猟採集社会は、環境の激変にも適応力が髙かったのではないか」と桑畑はみる。
環境の激変について聞きたくなり、東京大名誉教授の辻誠一郎(66)を訪ねた。辻は、地質学や植物学から研究を広げ、環境変動が社会や生態系に与える影響を研究してきた。約1万5千年前、十和田湖は、大規模な火砕流を噴出する巨大カルデラ噴火をして現在の湖の原型をつくった。東北北部をすっぽり覆うほど大量の火山灰が出て、森林は影響を受け、針葉樹林がダケカンバなどの落葉広葉樹に変化していった。その噴火後、縄文創世記の土器が東北各地で見つかるようになる。
カルデラを作る噴火ではないが、約5900年前の十和田湖の大規模噴火後に、「円筒土器」と呼ばれる新しい土器文化やクリの栽培が広がっている。噴火はその瞬間で終わらない。森林生態系が変化し、火山灰が積もった斜面は雨で簡単に崩壊し、土砂災害が多発する。泥流で湾が埋め立てられ、魚介類にも影響が出る。居住地も食料もそのままというわけにはいかない。それが「新しい文化を生むチャンスになった可能性」を辻は指摘する。新たな文化で適応したのは、噴火を生き延びた人かもしれないし、他から移動してきた人たちかもしれない。詳しい研究はこれからだ。 =敬称略 (瀬川茂子)

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