4月11日 電力の課題を研究する 安田陽さん(52)

朝日新聞2019年4月6日15面:再生エネの出力抑制 長い目で見ると得「隠れた費用」が少ない電源 一部を捨てても導入増を目指せ 九州電力管内で、太陽光発電業者らに発電を一部絞るよう求める「出力抑制(制御)」が時々起き始めている。九電が原発の稼働を続けたこともあり、昨年10月の初回はメディアが大きく取り上げた。出力抑制は他電力にも広がりそうだが、再生可能エネルギーの課題を研究する安田陽・京都大学特任教授は問題視しない。いったい、なぜか。
ー出力抑制をめぐる報道ぶりに、強い違和感をもたれたそうですね。「昨年10月に初めて出力抑制が起きたときは、風力発電の大量導入に関する専門家会合で欧州にいました。朝日新聞を含め1面トップにした新聞があり、テレビも大きく取り上げている様子をネットで追っていて、そんなに騒ぐようなことかなと感じました」「風力や太陽光といった再エネ発電の出力抑制は、海外では約10年前からあります。日本では初めてだったから耳目を引いたのだと思いますが、報道の多くは表面的で、何のための出力抑制かが十分伝わっていませんでした」 ー何が足りなかったと? 「出力抑制は、実は再エネをより多く入れるための安上がりな手段です。晴れると、太陽光の出力が跳ね上がります。冷暖房のいらない過ごしやすい休日の日中などは、電気があまり使われず供給が過剰になるので、出力を絞るわけです。再エネが増えれば出力抑制を求められる時間も増えますが、そんな一部を捨てても年間を通した再エネの発電電力量を増やすことを目指すべきです」
ー捨てるのはもったいなく思えますが。「捨てると一時的に損になりますが、再エネの燃料費はゼロですから、導入すればするほど長い目で見ると国民全体で得をするのです。蓄電池を備えようといった意見もありますが、何でも技術で解決しようとするのは日本の悪い癖です。1年に短時間しか使わないのに高価な装置を新らに付けるより、すべきことはたくさんあります」「確かに大量に捨てとなると事業性を損ないます。海外ではだいたい総発電電力量に占める再エネの割合が1割を超えると、出力抑制が起きていますが、その際、捨てるのは再エネ電気の5%ぐらいにとどまっています。この程度ならば許容範囲でしょう」
ー電力会社は、出力抑制を避けるために最善を尽くしているのでしょうか。「そもそも制度上は年間で360時間、約8%まで無補償の出力抑制が織り込まれています。そのなかで九電は、再エネの割合が1割を超えていますが、昨年捨てた再エネ電気はわずか0.2%。東北電力や北海道電力はまだ出力抑制していませんから、努力が実っていると言えるようです。余った電気で水をくみ上げ、後で発電する揚水発電を使ったり、電力会社間で電気を融通する連係線を活用したりして、なるべく有効に使うようにしているのでしょう」「ただ、どういう工夫をしているのかが見せません。各電力会社の自主努力に任せず、きちんとルール化して情報公開すべきです。日本でも議論していますが、遅れています」 ー再稼働させた原発を優先して、再エネ事業者に損をさせているのでは? 「特定の企業や産業界だけを見て、目先の利益で誰が得をした、損をしたというのは、とても狭い議論です」「そもそも、なぜ再エネを入れるのでしょうか。それを考えるうえで、どうしても使いたい言葉が二つあります。『便益』と『隠れた費用』です。便益は費用と対になる言葉で、国民全体、地域市民全体が享受できるメリットのことです。特定企業の利益とは違います。隠れた費用は、化石燃料による大気汚染や地球温暖化、原発の事故対策コストなど、これまで十分考慮されてこなかった費用です」
「これまで安いとされてきた石炭火力発電や原発に世界的にブレーキがかかっているのは、隠れた費用が本当は大きいという認識が広がったからです。隠れた費用の少ない再エネが、多い既存電源に取って代われば、社会的便益が大きい。だから各国は導入を促す政策をとっているのですが、日本ではそうした数字に基づく議論が乏しく、好き嫌いによるいがみ合いになってしまいがつです」 ー再エネは高いと主張する人もいます。「確かに今は、再エネの電気を電力会社が決まった価格で買い取る固定価格買い取り制度で、買い取り費用が電気料金に上乗せされているため『高い』かも知れません。でも、それは社会的便益の大きな再エネという貯金を将来世代に残すことです。逆に見かけが安いからと、隠れた費用の多い石炭火力などを使い続けるのは、子孫につけを残すことにほかなりません」
ー再エネ、原発、火力などの割合は、どのようにあるべきだとお考えですか。「『ベストミックス』という和英英語を使う人も多いですが、実は、世界中どこにも歴史的にもそのような理想像は存在しません。あるとしたら『特定の誰かにとって都合の良い理想像』でしょう」「日本では、政府がその割合を決める社会主義の計画経済的な政策をとってきました。私自身は原発を含めて特定の電源に対して賛成・反対は唱えません。そうしても問題は何も解決できないからです。電源がどのような割合になるのかは、市場に委ねるのが理想でしょう」「もちろん、現在の市場は、隠れた費用を発生させる電源が有利になる『ゆがんだ』状態ですから、今の制度の延長線上で大丈夫といっているわけではありません。気候変動や健康被害などの観点から、どの電源に対しても公平・公正で非差別的なルールをつくる必要があります」 ー原発があっても再エネ導入は進むのでしょうか。「再エネ大量導入を議論する際に、原発をやめるかどうかを一緒に論じるべきではありません。議論がそれて、結果として本質的な議論を阻害するからです。諸外国は原発の有無に関わらず、再エネ大量導入を目指し、それを段階的に達成しつつあります」「再エネ100%も技術的には可能ですが、将来は90%ぐらいで残りを他の電源で分け合うのが現実的かも知れません。政府はエネルギーの安定供給、経済効率性、環境適合性、安全性をいいますが、再エネはその多くの点で優れています」「公平で効率的な市場設計・運用ができるようになれば、隠れた費用の大きな電源は『市場に任せて』、淘汰されることになります。電力取引市場が成熟しつつある欧州では、電気が余るような状況になると電力価格はマイナスになります。その間、原発のフル稼働を続ければ、赤字を垂れ流します。簡単に出力を調整できる再エネは、その点でも有利なのです」「こうした状況を生じさせる理想の市場は、科学的根拠に基づく理性的な政策議論と、市民やメディアによる監視と参加によってのみ達成されると考えています」
「出力抑制」電気の需給バランスが大きく崩れると停電の恐れがある。大手電力会社は日常的に気象を含む様々なデータから需給を予測し、バランスを保つ手を打っている。供給が過剰になりそうになると、大手電力は再エネ事業者に出力抑制を指示できる。九州電力が2018年度中に九州本土で実施した再エネの出力抑制は、昨年10月13日が最初で、今年3月31日まで26回あった。特に3月は平日にも相次いで、16回にのぼった。出力抑制を求めた量は日によって違い、再エネ出力の6~31%。指示は輪番なので、発電設備ごとにみると4回か5回だった。世界では太陽光と風力を合わせた発電電力量が全体の2割を超える国が次々に現れている。日本では。1割を超えた九電に続き、東北電力と北海道電力が1割に迫っており、政府も昨年まとめたエネルギー基本計画で初めて「再エネの主力電源化」をうたった。再エネの大量導入に向けて進むにつれ、出力抑制はさらに広がると予想される。
「取材を終えて」 「新しい思想は新しい言葉がないと表せない」「新しい技術には新しルールが必要だ」お安田さんは言う。再エネ導入にはお金や手間がかかる。だが、それは社会的便益を得るための投資であって、火力発電や原発の隠れた費用を明らかにして考えないと公平ではないだろう。原発の是非は本来、再エネと別にきちんと論じられるべきだが、政府は避けている。市場が原発の退場を促すのか、注目を続けたい。(大牟田透)

 

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