31日てんでんこ 音楽の力【6】

朝日新聞2017年8月29日3面:「音楽は無力だ」。号泣する佐渡裕に、ドイツから電話が。 神はなぜ音楽を人に贈ったのか。指揮者の佐渡裕(56)は、二つの「震災」をきっかけに、それを実感した。2011年3月11日。英BBCフィルハーモニック、ピアニスト辻井伸行(28)と、国内ツアー中だった。辻井と横浜のホールに入った直後、揺れが襲った。公演は打ち切られ、オーケストラは帰国した。14日、佐渡は自宅のある神戸に戻った。
自分には命を助けることも、食べ物を届けることもできないー。譜面を開く気にもなえあず、友人のさだまさし(65)に電話した。「音楽ってなんて無力なんだ」と号泣した。さだは「きっと佐渡さんが必要になる時が来るよ」となぐさけた。
さだとの電話を切ってすぐ、携帯電話が鳴った。ドイツのマネージャーからだった。急きょ日本支援のコンサートを開くので、、ベートーベンの「第九」を指揮してほしいという。「歓喜の歌」と呼ばれる合唱を含む交響曲だ。「この状況で『フロイデ(喜び)』なんて」断ろうとしたが、「連帯の意味を持つ歌だ。ユタカも知っているだろう」と説得された。
26日、佐渡はドイツ・デュッセルドルフのホールに立った。被災地への思い。災害へのやり場のない怒り。複雑に揺れ動く心の中で、タクトを振った。「すべての人が兄弟となる。抱き合おう」と合唱団が歌い、花火が打ち上がるように盛大に演奏が終わった。2千人の観客は沈黙したままだった。
「ダンケ(ありがとう)」。佐渡が言うと、堰を切ったように拍手と声援が起きた。日本がんばれ。佐渡にはそう聞こえた。「いい演奏をして喜ばれることが音楽のだいご味だと思っていたが、その本質は、別々の所、時に生きていることを感じさせることにあるのだ」
自分がやらねばならないことに気づいた。「すぐにでも被災地に行きたい」そんな佐渡に、一通の手紙が届いた。(東野真和)

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