3月8日てんでんこ 祭人「4」四方固め

朝日新聞2019年3月2日3面:病魔と闘う宮大工。「祭りになると元気が出てくる。神様に生かされているんだな」 元日の岩手県大槌町では、小槌神社に初詣に来た参拝客に城内大神楽の一行が舞いを披露した。終わると一行は神社前にある元保存会長の小石幸悦(72)の新居に入った。厄払いの「四方固め」を演じ、酒宴が始まった。小石は若い頃、町を出て神社や寺の修理の現場を回って武者修行した経験から宮大工の心得がある。東日本大震災で失った母のエイ(当時99)は、学者が本にまとめたほど多くの昔話を口伝で覚えていた。子供の頃からその話を聞き、神楽を舞って育ったことで、伝承や神事への思い入れが強かった。
津波が去った後、がれきで埋もれた小石の自宅に、小さな観音像が流れついた。「吹きさらしでは申し訳ない」とほこらを造ってまつった。通る人が次々と拝んでいった。浸水した家の修理を頼まれて回っていると、隣の地区の郷土芸能団体から「山車が流されたので造ってほしい」と頼まれた。別の団体からも次々と声がかかり、城内を含め5台の山車を造りあげた。人口1万2千人の大槌町に20以上の郷土芸能団体があり、その多くが山車や道具を失った。十分助成金をもらえない団体には、仕事場にあった材木を使ったり工賃を下げたりして安く仕上げた。
それが落ち着いたら、再建をした家の神棚を頼まれた。こまごました材木を手作りで組み合わせ、一つ作りあげるのに1ヵ月以上かかる。労力のわりにはお金にならないが、根が好きなだけに十数個引き受けた。2017年、やっと市街地の土地整備が終わり、自分の家を建てようと設計図を引いていたら、手が動かくなった。がんになり、骨に転移していたのだった。自宅用の神棚だけは何とか作ったが、建物は他の大工に頼んだ。震災後に大槌町に戻って大工仕事を手伝うようになった次男の幸輝(38)も加わり、やっと昨年末に完成した。小石の収入がなくなったので銀行からの融資が減り、2階建ての予定が平屋になった。
闘病生活ですっかり気力を失った小石だが、秋祭りが近づくと医者も驚くほど病状が改善された。「不思議と元気が出て、気がつくと、一番前で神歌に声を張り上げていた」神様に生かされてるんだな。小石は思う。 (東野真和)

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