3月5日 1872年(明治5年)カレーの作り方伝わる

朝日新聞2019年2月27日4面:華麗なる進化で庶民に浸透 大衆に愛され、多彩に華麗に進化を遂げてきたカレー。記録上、最初に日本で調理法が紹介されたのは1872(明治5)年。文明開化で西洋化の波が押し寄せる中、相次いで出版された「西洋料理指南」「西洋料理通」に作り方がある。横浜の外国人遺留地に暮らした英国人のメモを翻訳するなどしたものだ。どんなカレーだったのか。刊行から140年の節目の2012年に、横浜市の横浜開港資料館と、居留地の跡地に立つ「ローズホテル横浜」が協力して、「始まりのカレー」を再現した。使う野菜は長ネギだけ。明治の初めごろ、タマネギは日本で広く普及していなかった。「西洋料理指南」では、薬味のショウガやニンニクと一緒にバターで炒め、水を加えて鶏、カエル、海鮮などの具材を投入。輸入のカレー粉や小麦粉も入れて煮込む。あとは塩のみ。「西洋料理通」では牛肉を使い、リンゴやユズを加える記載もあるが、総じて具材も手順も記載も簡潔だ。
「英国式の欧風カレーと遠くはないですが、今とは別モノ『カレー風味の煮込み』が近いと思います」と同ホテルの料理長、長谷川美典さん(49)。当時、総料理長の元で再現にあたった。小麦粉の分量がわずかでとろみが少なく、香りが逃げないような水分量や具材の切り方に苦心したという。今回、改めてビーフカレーと、カエルと海鮮などのカレーの2種を再現してもらい、記者が食べてみた。今のカレーが複数のスパイスと具を調和させるオーケストラなら、これは凛とした独奏のよう。シンプルながら、後をひく。元々、カレーの本場はインドとその周辺。18世紀、英国人がインドから母国に持ち帰り、小麦粉を入れて欧風カレーになっとされる。英国式を手本にした日本では、レシピ本発行から5年後の1978年には東京の風月堂で1皿8銭で提供。関連の社史には、明治半ばに「即席ライスカレー」として、しょうゆ、カツオだしを使う和洋折衷の調理法を紹介したという記録が残る。
小菅佳子著「カレーライスの誕生」によれば、明治末期にはタメネギ、ニンジン、ジャガイモという「定番」の材料が確立し、今に通じる原型ができあがったという。その頃には富国強兵を目指す陸軍、海軍もすでにカレーを取り入れており、大衆化へのきっかけに。国産のカレー粉づくりも盛んになり、市中ではカレーうどんやカレーパンも売り出された。栄養バランスもいい「総合食」だけに、第2次大戦後は栄養不足を補うメニューとして学校給食にも登場。国内メーカーは、小麦粉を炒める手間が省ける即席の粉や、固形ルーなどを次々に開発した。
高度経済成長期には生活スタイルや働き方に応じてカレーの需要も変化。「残業のお父さんに代わって、夕食メニューの決定権が子どもに移ったことも普及の背景にあると思います」とハウス食品の広報担当の前澤壮太郎さん(39)。1963年発売の「バーモンドカレー」は、画期的な甘口で子どもに支持されている。68年には世界初の市販レトルト品「ボンカレー」(大塚食品)も誕生、家庭にますます浸透した。
2000年代に入ると、カレーはより個性豊かに進化する。専門店が増え、17年ごろからは、複雑なスパイスやこわだりの素材で型にはまらない「スパイスカレー」が大阪を中心に全国で人気だ。自分の感性で調理できる点や、インスタ映えする見た目がスマホ世代にも受けている。個性派カレーの人気を、ヱスビー食品のスパイス&ハーブマスター遠藤由美さん(48)は「バブル期以後、日本人は国内外で異国の食べ物やグルメに触れる機会が増えました。全体的に食やスパイスの経験値が上がっているのだと思います」と分析する。国内外で1400店舗以上の「カレーハウスCoCo壱番屋」を展開する「壱番屋」(本社愛知県)は昨年末、英国に初出店した。評判は「上々」だといい、同社では「遠くない将来、インドへの出店も考えている」という。すでに中国などで人気の「日本のカレー」が、本場で受け入れられ、さらに世界中に広まる日が来るのだろうか。(権敬淑)
創作意欲かき立てる許容力 カレー総合研究所代表取締役 井上岳久さん(50) 日本では、家庭のカレーもあれば、給食やご当地カレーもある。外食でも種類は豊富で、最近では日本のカレーの文化史を変えると言っていいほどスパイスカレーの人気が全国に広がっています。なぜ、日本人はこれほどカレーが好きなのか。まずは、ご飯に合うものが好きだからでしょう。加えて、うまみや甘み、酸っぱさなどの基本の五味を感じる繊細な味覚があるからです。それを満足させるため工夫をするのも得意です。カレーには、これらをすべて受け入れる大きな許容力があるんんだと思います。材料やスパイスの組み合わせは無限大。それも日本人の創作意欲かき立てるんでしょうね。私自身、「横濱カレーミュージアム」のプロデューサーを経て独立し、カレーの研究やコンサルティングをする一方、2014年に「カレー大學」を設立し、カレー学をビジネスや人生に生かすための人材育成もしていますが、知れば知るほどカレーの奥深さを実感します。日本に入ってきた頃に比べて、今はものすごく工夫されて多様化もしています。同じように50年後に今を振り返ると、「昔はあんなカレーを食べてたんだ」と驚くほどに、家庭でも外食でも、日本のカレーの進化は続くと思います。

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