3月30日 後継者がいない「上」 廃業の予備軍127万社

朝日新聞2018年3月22日4面:社長の競争力 引き継ぎ難題 JR大宮駅から北へ約10㌔。埼玉県伊奈町の事業所や工場が集まる一角に、円戸幸雄(82)が1980年に創業した三共技研がある。複数の素材を貼り合わせて梱包材などに仕上げるラミネート加工が専門だ。社屋に隣接する工場では、ゆっくりと回る二つのローラーから出た2枚の素材を自動でぴったり接着させる工程が続いていた。でもたシートは、住宅の鉄骨と外壁の間に入れられ、緩衝材の役目を果たす。
円戸が考案したこの製法は、大幅な自動化で人件費を抑えられるのが特徴で、特許ももった。製品は全て大手住宅メーカーが買い上げる。「この製品は営業する必要がないんです」。需要は増加傾向という。そんなアイデアと技術力で会社を引っ張ってきた円戸だったが、悩みがある。自社の将来を任せる後継ぎがいないのだ。3人いる娘はすでにそれぞれの道を見つけた。10年ほど前から、取引企業に頼んで、優秀な社員を後継候補として何人か送り込んでもらった。
しかし、どの候補者も定着しなかった。中小企業の社長は、営業から開発、製造まで、細かく把握する必要がある。円戸は住宅だけでなく、土木、金属、食品、化学繊維など幅広い取引先から細かい悩みを聞き、独自の技術提案をして商機につなげてきた。同じことを後継者が務めるのは簡単ではない。
会社の売却という道もあるが、密接な取引がしづらくなると心配する取引先からは、独立経営をお願いされる。「あと3年のうちには跡取りを見つけなければ」。あらゆるつてをたどって探すつもりだ。経済産業省によると、この20年で中小企業の経営者の年齢分布は47歳から66歳へ高齢化。2020年ごろには数十万人の「団塊の世代」の経営者が引退時期となる。「中小企業の競争力の源泉は『社長』自身であることが多く、創業者はなおさら。引き継ぐのは簡単ではない」(大手銀行幹部)。少子化や「家業」意識の薄れもあり、後継ぎのめどが立たない企業は多い。
経営者が60歳以上で後継者が決まっていない中小企業は、日本企業の3分の1にあたる127万社に達する。事業が続けられず廃業する企業の半分は黒字とされ、25年ごろまでに650万人分の雇用と22兆円分の国内総生産(GDP)が失われる可能性がある。首都圏近郊の板金会社の社長だった女性(60)は昨春、板金工の兄が約40年前に創業した会社を畳んだ。精密加工技術が評価され、製品は新幹線の車体にも採用された。11年に兄が急死し、社長を継いだ。出入金管理や不利な手形取引の見直しを進め、就任3年で無借金経営に転換した。
しかし、兄の一人息子は後継に一時意欲を見せたが、結局別の道を選んだ。古株の従業員にも引き継ぎを断れた。「私が会社をみとろう」と決めた。取引先からは「同じ品質のものが調達できなくなる」と嘆かれた。廃業すればサプライチェーン(部品供給網)の分断にもつながる。何とか技術は残せないかと考え、同業者と交渉し、設備やノウハウ、従業員を譲渡することでまとまった。機械設備を売り払って廃業してしまう方が、手続きは簡単で、多くの金額が残る可能性はあった。でも、事業譲渡で技術を引き継ぐことを優先した。女性は言う。「会社をつくり、経営したのは私たちだけど、培った事業は社会のものですから」=敬称略
東京商工リサーチによると、後継者難などで毎年3万件の企業が休業や廃業、解散している。技術やノウハウが失われかねない事態にどう対応すべきか。3回にわたり報告する。(榊原謙)

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