3月3日 池上彰の新聞ななめ読み

朝日新聞2018年2月23日17面:日銀総裁人事の報道  異次元・出口何のこと? 日本のメディアは冬季五輪一色。他に大事なニュースが存在しないかの様相を呈していますが、そんなことはありません。4月で任期切れを迎える日本銀行の黒田東彦総裁を再任する人事案が今月16日に安倍内閣から国会に提示されました。
黒田総裁のもと、日銀は大胆な金融緩和を進めてきました。総裁再任で、この緩和路線は続くことになるでしょう。では、これまでの緩和とは、どんなものか。日銀が現在抱える課題とは何なのか。新聞各紙は読者に分かりやすく伝えたでしょうか。今月17日付朝刊の記事に絞って検証します。
 朝日は3面の総合面でこれまでの政策を総括しています。<黒田総裁続投で異次元緩和路線が続くことになるが、開始後5年で政策の副作用が目立ってきている。大量の国債買い入れで日銀の国債保有は発行額の4割超に達し、超低金利が常態化。財政規律は緩み、年金を運用する国債利回りの悪化は老後不安も呼んだ。上場投資信託(ETF)の買い入れは株価をゆがめると指摘される。これだけの緩和でも物価上昇率は2%に届かず、目標達成は6度も先送りされた。緩和を歓迎していた経済界の空気も変わってきた> 問題点をコンパクトによくまとめていると思いますが、いきなり「異次元緩和路線」という用語が出てきました。経済記事をどう書くか、難しい課題のひとつが、こうした言葉です。経済に詳しい読者にとってみれば「異次元緩和」の説明は不要です。日経新聞なら必要ないでしょう。でも、朝日は一般紙。経済に詳しくない読者もいることを想定する必要があります。この記事の中でわざわざ「異次元緩和」を解説する必要はないでしょうが、どこかで用語解説を入れると読者に親切です。
「異次元緩和」の用語は読売も説明がないまま使っていますが、毎日は「従来の金利操作を中心とする金融政策とは異なる、異次元の量的緩和策を実施した」と書いています。これで異次元の意味はわかりますが、今度は「従来の金利操作」という難解な表現が登場。読者の悩みは深くなります。
この点について読売はどうか。<本来の金融政策は、景気が悪くなった際には利下げを行って経済を下支えし、景気が良くなった際には利上げを行って経済の過熱を防ぐというものだ。日銀が行っている現在の大規模な金融緩和は、「非伝統的な金融政策」とも呼ばれる> これでは「異次元緩和」という言葉を使っていませんが、実質的に、その内容の説明になっています。
最初に引用した朝日の記事では「大量の国債買い入れ」という言葉が出てきます。これが「非伝統的な金融政策」の意味ですが、日銀は、なぜ国債を大量に買い入れるのか。どこから買い入れるのか。こんな疑問を持つ読者もいるはずです。ここは、例えば「民間の金融機関はお金を貸し出す先がなかなか見つからないため、政府が発行する国債を買い、その利子で収益を上げようとしている。これでは景気回復につながらないので、日銀は民間が保有している国債を大量に買い上げ、代金を民間の銀行口座に振り込んでいる」と書いたらどうでしょう。この後には、読売の次の文章をつなげればいいのです。 <お金の量が増えれば金利が下がり、企業が設備投資に踏み出すほか、物価が上がると考える人が増えれば、人々が今のうちにお金を使うようになるとの狙いがあった>
今回の各紙の記事で他に気になったのが「出口」という用語です。朝日は9面の記事の見出しに「緩和の出口 市場注視」と書きました。他紙の記事にも「出口」が噴出します。これは異次元の金融緩和を縮小し、伝統的な金融政策に戻すことを意味します。日銀担当記者は日常的に使っているので、そのまま書くのでしょうが、具体的に何を意味するのか説明することが求められます。新聞記事は「誰のためのものか」を常に胸に刻んでほしいのです。
🔶東京本社発行の最終版を基にしています。

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