3月27日 大阪ダブル選の本質 耕論

朝日新聞2019年3月21日17面:中島岳志さん 法の穴つく政治家の暴走 「大阪維新の会」の大阪市長と大阪府知事が任期途中で辞め、それぞれが違う立場で選挙に立ち、事実上任期を延長するー。市長と知事がそのまま出直し選挙に出馬し、当選すれば任期は残り任期と同じです。この公職選挙法の規定は、首長側の恣意的な選挙を避けるためのものですが、今回の大阪の選挙は法の穴をねらった、いわば脱法行為です。同時期の府議選や市議選も有利に運びたいというもくろみもあるでしょう。
憲法や法律といった明文の規定で禁止されていないから、「民意を得れば良い」ということかもしれません。しかし、権力を持つ人の多くは保守派を自任しています。現行のルールの穴を見つけて、先祖たちが失敗を重ねながら築き上げてきた慣習や知恵を無視するのは、私に言わせれば保守ではありません。これは大阪だけの問題に限りません。現代政治の問題点が表れているように感じます。
例えば安倍内閣が臨時国会を開かなったことが典型でしょう。憲法53条で衆参どちらかの総議員の4分の1以上の要求があれば、嫌でも臨時国会は召集されなければなりません。ところが「何日以内に」というルールがないことを根拠に開きませんでした。異なる意見に耳を傾ける寛容な保守政治家が、してこなかったことです。最近の政治家は、「そんなこと法律に書いていなじゃないか」の一言で押し通す。慣習や暗黙知を平気で破っているのです。民主主義と立憲主義の対立という、現代日本にとって切実な問題もあります。民主主義は、今を生きる人間の多数が支持していることは正しいという考えに傾きがちです。
それに対し、いくら今生きている多数が良いといっても、憲法が権力を縛る、ダメなことがあるというのが立憲主義です。両者は簡単には合致しないのですが、「今生きている人」だけでなく、過去の人たちの英知と折り合いをつけるのが民主主義の知恵でした。保守と呼ばれる人たちには、「今」だけを特権化してしまうことは、おこがましいという謙虚さがあるはずです。保守思想家たちは「庶民」と「大衆」を区別してきました。庶民は、それぞれの居場所を持ち、異なる意見を持つ他者とも合意形成し、社会の秩序を保つ知恵を歴史的、集合的経験から得ている人々のことです。一方、瞬間的な熱狂、「炎上」などでうわーっと瞬間的に盛り上がり、また忘れていく根っこのない人々を大衆と呼んでいました。民主主義が大衆によって乗っ取られ、暴走することを心配していました。「違う意見の持ち主は壊滅させてしまえ」と言わんばかりの主張が保守と呼ばれる。そんな最近の風潮に憤りを感じています。(聞き手・池田伸壹)
善教将大さん 府市の利害調整役を誰に 国政政党の「日本維新の会」の全国的な支持はいま一つですが、所属議員が重なる地域政党「大阪維新の会」(以下、維新)は、違います。大阪では前代表の橋下徹さんという強力な個性とリーダシップを兼ね備えた政治家がいなくなって以降も、根強く支持されてきました。今回のダブル選で、維新は大阪府知事と大阪市長の候補者を入れ替える手法をとりました。維新という政党の強みを最大限に活用するための戦略だと理解できます。強みとは、大阪府・市の利害を調整し、市域を越えた「大阪」の利益の代表者と自らを位置づけることに成功している点です。
多くの識者は、橋下さんのメディアを利用した発信の仕方などから、維新は大衆扇動(ポピュリズム)政党という見方をしてきました。しかし、私の研究結果では違ったのです。これまで府と大阪市の「二重行政」は、たびたび問題視されてきました。維新は、松井一郎知事(現維新代表)と橋下・大阪市長が誕生した2011年以降、府市でタッグを組み、調整をはかってきました。府市一体となって取り組んだ万博誘致はまさにその成功例だと主張しています。維新を支持する有権者は、候補者個人よりも「維新」という政党を重視して投票する傾向があります。個人ではなく政党を基準に考えるで、知事と市長を入れ替える戦略に対して問題ないと考える有権者は一定数いるのでしょう。さらに、維新にとっては首長候補を入れ替えつつ大阪府議選、大阪市議選と選挙時期を重ねることで、「前回の選挙では維新に入れたが、今回はやめよう」といった票が割れる可能性も低くなるでしょう。今回、知事と市町が辞任して「信を問う」とした大阪都構想は、どうやって府と市の調整機能を保障するのかという問題に行き着きます。これまでは事実上維新という政党が両首長ポストを得ることで利害調整を図ってきました。都構想の根本には、利害調整を行政機関の再編によって行おうとする目的があるのです。こうした経緯を踏まえると、今回のダブル選や府議選、市議選は、誰が府と大阪市の利害調整をし、市域をこえた大阪の利益を代表できるのかが重要なポイントになると思います。自民党など「反維新」が勝つには、維新が行ってきた利害調整を、自分たちがどうやっているのかを示す必要があるでしょう。「できる」と言うのであれば、それを裏付ける説得力のある説明や構想が、有権者からは求められると思います。(聞き手・楢崎貴司)
田原総一郎さん 都構想の理念見えぬまま 維新の大阪府と大阪市長が入れ替わるかたちで選挙にのぞむ今回の「クロス選挙」について、党利党略だとか住民不在だといった批判が向けられています。ただ、私はこの手法も「あり」だと思います。勝つためにはどんな策も駆使するのが政治です。そもそも選挙に党利党略はつきものです。維新のクロス選というのは勝つための戦術にすぎませんが、物事には戦術より大きな戦略があります。問題はそこです。どんな理念やビジョンのもとに「大阪都構想」を掲げて選挙に訴えるのか。今夏はそれが有権者や国民にわかりにくい。見えてくるのが「二重行政の解消」というスケールの小さな話しばかりです。これは都構想の表面にすぎません。本来は日本全体お変革するスケールの大きな構想のはずです。東京は政治の中心なのに、なぜ大阪は経済の中心になれないのか。なぜ大阪が米国のニューヨーク、中国の上海のように発展しないのか。なぜ大阪の大企業は東京へ行ってしまうのかー。以前、大阪選出の国会議員を招いたシンポジウムで司会を務め、尋ねました。私も滋賀出身だから関心が強いのです。でも、誰もが「その通りです」と言うだけで答えがなかった。
大阪の停滞の背景には、東京一極集中と中央集権化の問題があります。大企業は官庁がある首都を選ぶし、東京だけが人口が増えて、豊かになります。分権に挑んだ「橋本行革」は失敗し、中央省庁は数は減っても巨大化。統計不正問題の根には、コントロールが利かなくなった省庁各部門のセクショナリズムがある。日本は国のかたちを変えないと立ちゆかない。その変革のリーダーに大阪がなる。都構想の意義はそこにあったはずです。1970年の大阪万博後、私は招致を推進した通産省(当時)の官僚に会いに行きました。先日亡くなった堺屋太一さんです。堺屋さんは80年代に情報化社会の到来を予言するなど、先見の明がある人でした。首都機能移転や地方分権に日本の将来を見据えていた彼が、2008年の大阪知事選で、説得して出馬させたのが橋下徹さんです。だから橋下さんの原点は、大阪都構想で、今でもバックボーンに彼の存在があるはずです。「一丁目一番地」という通り、維新は都構想を実現させるための政党なのです。大阪をニューヨークにする、それに任期4年はかかるというなら、クロス選の意味も伝わりやすい。でも大きなビジョンを掲げ、具体的な道筋を示して説得しないといけないのにできていない。私はこの点に大きな不満があります。橋下さん、なぜこの本質がぼやけけてしまっているのでしょうか。(聞き手・中島鉄郎)

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