3月26日 緩和ケアの充実手探り

朝日新聞2018年3月16日23面:求められる「早期から幅広く」 がんと診断された時からの緩和ケアの必要性が叫ばれて約10年。副作用対策にとどまらず、個人の生活や人生観に応じた幅広いケアが求められている。早期からの緩和ケアが広がる一方、十分にケアを受けれない患者もいる。効果の検証や人材育成が課題だ。
 説明足りぬ医師 患者は困惑 川崎市に住む鈴木千恵子さん(75)は2015年、S字結腸にがんが見つかり東京都内の病院で摘出手術を受けた。2年後に再発がわかり、ふたたび手術でおなかを開くと、腹膜にがん細胞が散らばっていて完全に取り除くのは難しいとわかった。
余命を主治医の外科医に尋ねると「3ヵ月、うまくいって6ヵ月」という返事だった。「抗がん剤治療しかない。やった方がよいが効くかどうかはわからない」と説明された。どうすればいいのかわからなくなり、迷った末に抗がん剤治療を受けた。だが下痢や倦怠感などの副作用がひどく、「死にほど苦しい」と感じたため、すぐに中止した。主治医に悪意はなかったのだろうと今も思う。ただし治療や副作用について聞きたいことがあっても、いつも忙しそうで相談しづらいと感じていた。知人の紹介で昨年末、日本医科大武蔵小杉病院(川崎市)で化学療法を専門とする腫瘍内科を受診した。
担当した勝俣範之教授から「我慢しないで良いですよ」と言われてほっとしたという。体への負担が少ない抗がん剤治療を再開し、連携する川崎市立井田病院で緩和ケアの一環としてのカウンセリングを受けている。手話コーラスや卓球サークルに参加できるほどになった。緩和ケアとは、生命を脅かす病気を抱える人の苦しみに対応し生活の質を改善するための治療やケアの総称。世界保健機構は、身体的苦痛のほか不安やうつ状態などの精神的問題から、仕事や経済的な問題、死への恐怖や人生観までふまえるものと定義している。
終末期に限定したものではないとされるようになったが、担当医の数は限られ意識改革も不十分だ。このため、問題のある説明をする医師も少なくない。勝俣さんは、自身が診る患者が前にかかっていた医師から受けたという内容をもとに3分類する=図。治療の選択肢を示し患者に丸投げするような「自己責任押し付け型」。科学的な裏付けがあるとして推奨される標準治療はもうないと突き放して、終末期の緩和ケアを受けることを促す「見放し型」。「治療しなければ余命はわずかだ」と脅す「脅迫型」だ。
米では延命効果の報告も 国のがん対策推進基本計画では、早期の緩和ケアの推進がうたわれ、がん治療と並行してのケアの重要性が増している=図。患者の増加やケアの必要性の高まりとともに、がん治療を専門とする腫瘍内科医もケアを担うようになってきた。川崎市立井田病院の腫瘍内科医、西智弘さんは15年、早期がん患者も対象にした緩和ケア外来を開設。他院で化学療法を受ける患者にケアをする。「仕事や家族、地域とのつながりを再構築しながら治療することを支える早期の緩和ケアが必要だ」と西さんは語る。
がんの治療では吐き気やしびれ、脱毛、不安や抑うつとさまざまな副作用が生じる。どんなケアが効果があるのか。16年には国立がん研究センターに事務局を置く「日本がん支持療法研究グループ」が立ち上がった。科学的なデータを積み上げるのが目標だ。代表の国立がん研究センター中央病院(東京都)の内富庸介支持療法開発部門長は「現在ある緩和ケア関連のガイドラインは海外でできたもの。日本独自の科学的裏付けが乏しい」と指摘する。
ケアの提供体制も確立していない。国立がん研究センター東病院(千葉県)は昨年、がん看護や緩和ケアなどの専門・認定看護師が中心となり早期からの緩和ケアを提供するプログラムの効果を確かめる臨床試験を始めた。同病院緩和医療科の松本禎久医師は「早期からの緩和ケアをどう提供していくか、科学的に検証していきたい」と話している。早期からの緩和ケアにより、患者の生存期間が延びるという研究成果もある。米国の研究者は10年に論文を発表した。非小細胞性肺がんと診断された患者151人を「主治医が必要と感じた時に標準的ケアが入る」と「診断早期から緩和ケア」の2グループに分けて比較。早期から緩和ケアをした方が抑うつ症状が少ないなど生活の質の改善が見られ、生存期間も2.7ヵ月延びていた。
心のケア専門職不足 抗がん剤の性能が上がり種類も増え、がんの治療期間は長くなっている。患者の年齢や仕事内容、家庭環境、価値観を反映させながら、一人ひとりにどのような治療が望ましいのかを選択していく必要性が増している。その実現には、医師が患者の思いを知ることが不可欠だ。「医師にとって、がん治療の出発点は患者との信頼関係。その第一歩がコミュニケーション能力だ」と勝俣さんは述べる。
コミュニケーション能力については、関連学会が医師向けの研修会を開いてきた。ただしそれだけでは十分でなく、心のケアにあたる専門職の充実が求められている。こうした声を受けて昨年9月、保健医療や福祉、教育の分野で心のケアができる専門職を養成する公認心理師方が施行された。今年9月には初の国家試験も予定される。医療現場で、患者の心のケアにあたる臨床心理士などの職種はこれまでもあったが、国家試験や法に基づくものではなかった。内富さんは「治療だけではない、さまざまな悩みに対応するには医師や看護師では限界がある。心のケアの専門職が医療現場で広がって欲しい」と期待する。(服部尚)

 

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