3月26日 危機の統計「4」

朝日新聞2019年3月21日7面:経済予測 政府意向に揺れる うそをついては国民に信頼されないー。日本列島を金融危機が包み込んだ1998年、小渕内閣で経済企画庁長官に就いた堺屋太一氏(故人)は就任早々、職員に「当たる経済見通し」に改めるよう指示したという。直前の橋本内閣は景気が堅調なことを前提に「財政構造改革」を掲げ、消費増税や歳出カットを進めた。民間シンクタンクは98年度の成長見通しを平均0.9%と試算したが、経企庁は大きく上回る1.9%とはじいた。その後も景気の悪化を認めず、政府の対応が後手に回った。堺屋氏の目には、財政再建という政権の目標のために景気判断がにねじ曲げられていると映った。「他の思惑を差しはさまないで、経済状況を正確に国民に伝えるべきだ」と語っていた。政府が毎年末に「政府経済見通し」などで示す日本経済の成長率見直し。官庁エコノミストを抱える内閣府(旧経企庁)が算出するが、民間の予測を上回ることが多く、以前から政治的思惑によるものではないかと指摘が絶えない。 複数の現職官僚や経済産業省OBによると、バブル経済が崩壊した1990年代、財政再建を急ぎたい大蔵省(現財務省)は財政出動の要求をかわすため、髙い成長率見通しを出すよう要求。一方、経済対策を引き出したい通商産業省(現経産省)は逆に低めの見通しを出すよう求め、両省のさや当てがあったという。当時は大蔵省の影響力が強く、高めの数字で決着しがちで、飯塚信夫・神奈川大学教授(日本経済論)は「官民の予測精度を比較すると、90年代の政府の予測は過大だった」と指摘する。国民の心理に左右される消費や投資などを大きく見積もったとみられる。
高め想定「試算でなく目標」 だが近年、「90年代ほどではないが、2013年度ごろから再び政府見通しが民間予測より過大になっている」(飯塚教授)という。政府は19年度の成長率見通しを実質でプラス1.3%と見込むが、民間予測の平均値同0.7%の2倍近い。政府はその前提として、10月に予定する消費増税対策が「効果を最大限発揮できた」(内閣府幹部)と想定。4月にスタートする外国人労働者受け入れ制度で5年間で34.5万人の働き手が増えることなども見込む。だが、プレミアム商品券やホポイント還元などの効果は限定的だとの指摘もある。外国人労働者の受け入れも想定通りに進むとは限らない。
「試算というより政府の目標値だ」。内閣府幹部の一人は高い見通しについてこう言い切る。こうした高めの見積もりは、財政再建計画の前提となる「中長期試算」でも顕著だ。安倍政権は「2020年代前半に実質2%、名目3%以上の経済成長」との目標を掲げる。「アベノミクスの旗を振っている限り、違う数字を出せない」(同府幹部)というわけだ。成長率見直しが髙いと、その分、多くの税収を想定でき、大規模な財政出動を含んだ予算を作り続けられる。だが、実際の成長率が下回り続ければ、期待した税収は得られず、その分、国債の増発で国の借金がさらに積み上がる。
政府が出す経済見通しに不信の目が向けられるのはこれだけではない。16年の主要7カ国(G7)首脳会議(伊勢志摩サミット)。安倍晋三首相が消費財率10%への増税の再延期を念頭に、「今の経済情勢はリーマン・ショック以前の状況と似ている」と主張したのに対し、「今はむしろ、私たちは危機の後にいる」(オランド仏大統領)「世界はある程度、安定した成長状態にある」(メルケル独首相)といった異論が出た。安倍首相の主張を裏付ける資料の電子ファイルの作成者は「今井尚哉(官邸・総理室)」だった。首相の最側近の一人で、経産省出身の秘書官だ。だが実際は、世界経済は16年に3.3%と、前年(3.5%)とほぼ同じ水準で成長を続け、その後もリーマン級の経済危機は訪れなかぅた。国の財政、経済運営の方向性を決める統計や見通し。ときの政権の意向から本当に独立しているのだろうか。 =終わり (大日向寛文、森田岳穂)

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