3月24日 波聞風問 編集委員 堀篭俊材

朝日新聞2019年3月19日7面:日本経済「デフレマインド」払拭なるか 人を超えるといわれる人工知能(AI)は、まだ苦手な分野も多い。例えば、ちょっとしたきっかけでセンチメント(市場心理)が変わる株式市場の動きは読み切れない。過去のデータをどんなに分析しても、将来、投資家の心理がどう動くのかを予測するのは難しいという。合理的な理屈だけでなく、人は不安や喜びといった感情にも大きく左右される生き物だ。今年の春闘は前割れの賃上げ回答が相次いだ。なぜ賃上げは失速したのか。成果主義の導入で横並びの賃金体系が崩れ、もともとベースアップ(ベア)にこだわる意味は薄れていた。日本の生産性は欧米に比べ低い。いろいろ理由は挙げられる。経済記者として駆けだしだった約20年前、「賃上げとはベアのことだ」と先輩から教わった。年齢とともに上がる定期昇給ではなく、退職金なども増える基本給を底上げするベアこそが、春闘の最大の注目点だった。そのベアを見送る動きが広がり始めたのも、大手金融機関が相次ぎ潰れた1997~98年ごろといわれる。当時の金融危機の記憶はその後の日本経済に大きな爪痕を残した。「賃金よりも雇用」と、労働組合はベア要求そもののを見送るようになった。経営者も正社員を採用するより、景気の動きに応じて減らしやすい非正規雇用を増やしてきた。
景気低迷が長引いたゆえに「いつまた経済危機がやってくるかもしれない」という思いが定着した。「転ばぬ先の杖」と企業も家計も、内部留保や現預金という形でお金をためこみ、投資や消費には回さなくなった。日本経済に染みついたこの意識を「一種の悲観主義」という人もいるし、安倍政権や日本銀行は「デフレマインド」と呼んでいる。日銀による空前の金融緩和が始まって6年。今回の春闘で、経営者や働き手のマインドは市場にお金を大量に供給する金融政策だけでは変えられないことが、改めてわかった。このままではアベノミクスがめざす景気の好循環は起きないし、日銀の物価目標の達成も遠のくばかりだ。
4日の参院予算委員会。国民民主の桜井充氏に「20年後の日本経済はどうなっていると思うか」と問われ、日銀の黒田東彦総裁は答えた。「人口減少や高齢化のマイナスの面もあると思うが、これは私の見解であって、日銀としては見通しを出す立場はございません」 平成がまもなく終わる。次の時代も日本は様々な難題に直面する。やがて、65歳以上の高齢者が3人に1人になる超高齢化社会を迎える。老いる未来は予測できても、確実な手を打たないでいる。20年後に責任をもつのはだれなのか。成長でも雇用でも社会保障でも、日本の持続可能性に対する確かな見通しがなければ、「縮み思考」は払拭できない。

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