3月21日 原発補償 心に痛み抱えて

朝日新聞2018年3月11日2面:同僚が「金貸して」繰り返した転職 慰謝料の受け取り今月分で終了
東京電力福島第一原発事故発生から7年。放射性物質で汚染された土地や建物、風評被害などへの東電の賠償は総額8兆円に上る。農業などの賠償は続くが、原発避難者の精神的苦痛に対する慰謝料の支払いが今月3月分で終了する。総額8兆円のうち1兆円を占めた。避難生活を経済的に支える一方、住民間のわだかわまりや、避難者への誤解や偏見につながったとの指摘も出ている。
避難生活は常に賠償というレッテルとともにあった。福島県浪江町で避難指示が解除された翌日、40代女性は避難先から逃げるようにふるさとに戻った。かつてJR浪江駅の近くに一家6人で暮らしていた。3㌶の農地を持つ、9代続いた農家だ。東電からは精神的賠償や農業の補償など補償金を合わせて1億円超受け取った。
農業の収入はなくなったが、賠償金で生活はできた。ただ、「働かないで生活している親子を子どもはどう思うか」。そう考え、勤めに出た。ガソリンスタンドで働き始めると、「賠償金がもらえていいね」。同僚たちがうらやましそうに言葉を向けてきた。バレンタインの日にチョコを渡すと冷ややかに言われた。「賠償もらっているんだから、もっといいチョコをよこせよ」
そんな言葉に嫌気が差し、別の町の工場に移った。だが同僚から「金を貸してくれ」。精神的にほとほと疲れ、ここも1年ほどで辞めた。「もう浪江町出身とは言わない」と決めた。賠償金の対象ではない所から自主的に避難していることにした。「馬鹿正直に言って、ひどいことを言われるのはいやだ」。結局女性は計5回、職を変えた。
ただある日、車の購入に出向いたとき、何げなく、「この前、浪江の人が来て、現金をたたきつけて『今すぐナンバーつけてこの車を持ってこい』と言われた。浪江の人には売りたくないんですよね」と言われた。顔が青くなったのを感じた。賠償金をもらって身勝手な振る舞をしている、そうした一部の人のせいで、ひどい目に遭っているとも思う。ふるさとに戻り、原発事故の被害者である自分がなぜ卑屈にならなければいけなかったのか、今も胸が痛む。でも、もううそはつかなくていい。浪江での暮らしは「心からゆっくりできます」と話した。
第一原発が立地する大熊町。女性(50)は夫と子どもと暮らしていた。家や田畑など4千坪は中間貯蔵施設の対象地になり、売却。新しくいわき市に家を建てた。でも腑に落ちない。娘は学校で「金持ちは違うよな」と言われた。別の学校に行っても、「大熊町出身です」と言うと、「賠償金もらっているから、金もっているんだな」と揶揄された。学校は辞めた。「苦しかった」と泣いた。勉強もスポーツも得意で明るかったのにー。「どこで歯車が狂ったんだろう」と思う。(茶井祐輝、石塚大樹、石塚広志)
「生活実態 正しく知って」 双葉郡内の町から避難を続ける30代男性が受け取った賠償金は両親と合わせて総額4千万円。「金額に不満はなく、私たち家族にとって暮らしを立て直すために大きかった。賠償金がなければ生活できなかった」と話す。一方、「受け取るまでの大変さ、惨めな気持ちが一番つからかった」。男性は仕事を失った損害として月額約22万円を請求した。だが、東電の認定は約16万円。何度も交渉を重ね、原子力損害賠償紛争解決センター(原発ADR)に和解手続きを申請。主張が認められたのは原発事故から2年後のことだった。
賠償をめぐる心ない言葉に胸を痛めた。仮設住宅に高級外車が止まっていれば「賠償金でぜいたくしている」と陰口を言われたり。しかし男性が知る限り、高級外車の所有者は震災前にも乗っていた人たちだ。「個々の事情を知らない人たちが印象で話し、悪い話ばかりが広がった。賠償金で身の丈に合わない暮らしをしているわけではない。実態を正しく知ってほしい」。そう訴えた。(杉村和将)
一律に線引き 生じた不公平感 大規模な原発事故が起きると、原子力損害賠償に基づき、国は審査会を設置し、賠償のルール「中間指針」をまとめる。福島第一原発事故の審査会は2011年4月に始まり、賠償の種類として、避難生活にかかる実費▽失業した給料の補償▽住めなくなった家屋の賠償▽出荷制限や風評被害を受けた会社の営業損害の賠償ーなど幅広く定めた。
審査会の中島肇弁護士は「指針は被害者に共通した賠償の『最大公約数』。着の身着のままで避難した人の生活のため、定型的な金額を早く出す必要があった」と話す。住宅の損害では新居を買う費用も賠償で補った。東電幹部は「指針は被害者に手厚いと思ったが不満を持たれないよう受け入れた」という。
賠償の指針は被害者救済のため、早さを優先する必要があった。その中で「ひずみ」が生まれた。その象徴が、長期避難に伴う慰謝料だ。当初、「月額1人10万円」で始まったが、事故から1年が過ぎて国は、原発避難者が受け取れる合計額に上限などを決めていった。放射線量が高い帰還困難区域は「ふるさとを失ったも同然」と判断し、1人一律1450万円。その外側で国の非難指示を受けた人たちは同850万円。これは11年3月~今年3月の85カ月分に相当した。国の指示がなく非難した場合は、1人最高48万円だった。
ただ、個別の被害実態ではなく、国が決めた区域で機械的に線引きされたため、被災者間に不公平感が生じた。3月分で慰謝料は終了するが、地域の分断や理不尽な偏見・差別など、原発避難者を取り巻く問題の解決はこれからだ。(井沢健司、編集委員・大月規義)

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