3月20日 オトナになった女子たちへ 伊藤理佐

朝日新聞2019年3月15日29面:指字の不安 「あ、サインでお願いします」と、言われたのだった。ん? ハンコじゃなくて? はい、ここに、指でいいんで、お願いします、と。配達のお兄さんがアイフォンみたいの出している。サンダルつっかけてハンコもったわたしに、ビューッと門扉で風が吹く。ゆ、指? ある会社の受け取りサインが「タッチパネルに指で名前を書く」に変身した。みなさん、もう体験はお済でしょうか? 指で書くって、なんか子供の頃やったような。懐かしいような。思春期の男の背中に「ア・イ・シ・テ・ル」と、やったような。いや、そんなイイこと、やっていない。大人になって海の砂に「LOVE」と、やったような。いや、それもないないない。それにつけても、アラワになった自分の「指字」が下手すぎて、不安2倍超えて4倍。もっと上手な気がしていたのはなぜ。こんな字の奴に荷物渡していいのか、お兄さん。「これ、アレに似ているぞ」と、指が言っている。最近、ラジオの電源ボタンがゆるくなって、今までの感覚で押すとつかない。強く押したあと「あ、そうだったね」と、やさしく押してやっとつくのだが、その時のギニャリ感に似ているのだ。毎朝、「ちゃんとつくのか」と、指は不安になっていた。ヨシダサンも荷物を受け取った。同じく、指が不安になったらしい。で、買ってきた。 「タッチパネル用ペーン!」ドラえもんの声で。タララッタラー・サイン用に玄関に置くと言う。980円。「ぅえーー」なんか恥ずかし~、というわたしに「時代は変わったのだっ」とかっこよく言う。荷物を待った。わたしはさっそくペンを忘れて、また指で書いた。ヨシダサンが「なんでっ」と、悔しがった。次、ヨシダサンが、ちゃんとペンを持って出た。ちがう会社の配達だった。ハンコだった。恥ずかしいがっている。やーいやーい。このように、わたしたちはまだ「かっこいいサイン」に、成功していない。(漫画家)

 

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