3月2日 日曜に想う 編集委員 大野博人

朝日新聞2019年2月24日3面:ほんとうは人手不足というよりも 「人手不足」。だから入管法を改正して外国人をもっと受け入れる必要があるとされた。でもこの良い方にはちょっとごまかしがあると思う。問題のほんとうの名前は「国民不足」ではないのか。いたるところで働き手が足りない。工場でもスーパーでもレストランでも農地でも介護や医療の現場でも。人手不足が深刻なのはまちがいない。けれども、人が不足し始めているのは経済活動の現場だけではない。
市町村議会では議員のなり手不足があちこちで問題になっている。警察にとっても自衛隊にとっても採用対象の若者層は小さくなる一方だ。どれも国民にしか担えない役割だ。働き手だけではない。消費者も納税者も減っている。経済が髙い成長率を示しているときなら「人手不足」は、問題を言葉としてふさわしいだろう。けれども今の日本が高度経済成長期にあるわけではない。なのに人手が足りないのは、国民が減っている上にどんどん高齢化し、若い人が急速に少なくなっているからだ。外国人を必要とする背景にあるのは、経済成長による労働不足ではない。「国民」がいなくなっているという人口動態危機だ。「人手不足」はその自症状の一つを表す言葉であって問題の原因ではない。「人手不足」だけ解消しようという発想は対症療法頼みにすぎない。
安倍晋三首相は先日の自民党大会で、自衛隊員の新規募集について、地方自治体の6割以上という数字を挙げて「協力を拒否しているという悲しい実態がある」と批判し、憲法改正の必要性へとこじつけた。そんな実態はないという反論にも引き下がらず、それどころか、自民党は所属議員に地元自治体の状況を確認するよう求める文章を出した。自衛隊が隊員募集で毎年とても苦労しているのは知られている。しかし、その最大の理由は人口減少にほかならない。2018年版の防衛白書によると、隊員募集の対象となる18歳から26歳の人口は25年前の約1700万人から約1100万人へと4割近く減っている。国立社会保障・人口問題研究所の推計を見ると、若者人口はこれからも減り続ける。防衛力を含め国力を支える人的基盤の若者人口がわずかな期間で激減しつつある途方もない危機。それは自治体が募集業務にもう少し人手を割くことで解決できるような問題ではない。
「たてば外国人部隊は今の日本ではつくれない。でもそんなことでも想像しながらヒントを探らなければならないほど人口危機は深刻」。そう話すのは、外国人の日本語教育について情報を発信するサイト「にほんごぷらっと」代表世話人の石原進さん(67)。多文化共生社会の実現を政財界にうながす活動を続けてきた。以前は毎日新聞の政治記者、論説委員として安全保障を担当し、現在は防衛省の防衛施設中央審議会委員も務めている。「あんな議論をするより、人口減少時代における防衛力整備のあり方を考えるべきだと思います」自民党の幹部もわかっているのだろ。文章にもこんなくだりがある。「少子高齢化等の要因により、自衛官の募集が極めて困難な状況にあることは、ご高承の通りです」
わかっていながら少子高齢化という難題を、別の問題に矮小化するー。自衛隊の募集問題は一例にすぎない。人口動態危機ではつねにこの手の政治的な言動が目立つ。不足しているのは国民なのに、それを人材と言い換えるのは、身もふたもない現実から目をそむけようとする姿勢の現れではないか。外国人をどんな場合に国民にするかどうかは簡単には決められない。だが少なくとも、日本が求めるべきはただの労働力ではない。外国人を「生活者」とみなすべきだというのは、人道上の理由だけでなく、日本社会が「生活者」を必要としているからではないのか。明快な解決策がみつからない問題を、わかりやすい答えを示せそうな問題にすり替える。日本の人口動態危機はそんなやり方ではとても切り抜けられない。

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