3月19日「ジャポニスム」をたどって1

朝日新聞2019年3月14日夕刊2面:不在の「寅さん」が語ること パリを中心に8カ月にわたって開かれていた「ジャポニスム2018:響きあう魂」が、先月閉幕した。海外での日本文化紹介としては、最大規模のイベントだった。日仏友好160年に合わせて日本政府が主導し、美術、映画、舞台、マンガ、祭り、食など様々な分野の催しを展開した。公式企画だけで100を超え、日本側の予算は約40億円にのぼった。現地で延べ約300万人を集めたと、盛況が伝えられている。昨秋と今年3月にパリで取材したが、観客の関心の高さは確かに強く印象に残る。古美術を丹念に観賞する姿、満員の演劇公演のキャンセル券を求めてできた長蛇の列。日本文化が熱く受け止められている場に何度も出あった。現地の会場や専門家との協働を重視した企画も多い。交流の歴史があるからこそ現実したやり方だ。だが、知識の積み重ねがあることで、双方の考え方の違いがはっきりと見える場面もあった。
例えば、日仏の映画専門家が共同で100本を選んで上映する計画だった「日本映画の100年」。この作品選びが難航した。日本側の責任者を務めた映画作家で早稲田大学名誉教授の安藤絋平は「日本人の多様な姿を見てほしい」と考えていた。だが、相手方のシネマテーク・フランセーズのプログラム責任者、ジャンフランソワ・ロジェらは、テーマを絞り、「フランスの観客を知らせるべき監督」として、市川雷蔵や勝新太郎の時代劇などを撮った三隅研次(1921~75)を特集しようと提案、安藤を驚かせた。一方で、映画史に欠かせない巨匠らの作品には「既に何度も上映した」と難色を示した。
規模も予算も大きな「ジャポニスム」をどう生かすか。安藤は「マニアではない観客にも様々な日本映画を知ってもらう機会に」と考えた。ロジェは「発見し、知識を追加する場」と位置づけた。この溝を狭み2年近く、約450本の候補作について議論を重ね、119本が選ばれた。「ジャポニスム」ホームぺージにあるリストを見ると、1925年製作「雄呂血」から2018年の最新作まで、幅のある作品が並んでいる。溝口健二、小津安二郎、黒澤明らの名作群は、デジタル技術による修復を経た「再発見」の特集に。工夫と苦労がしのばれるラインナップだ。あれ? 山田洋次作品は「たそがれ清兵衛」と「小さいおうち」。「国民的映画」である「男はつらいよ」がない。安藤は「ぜひ入れたかった」と残念がるが、「フランスの観客には理解が難しい」とロジェが譲らなかったのだ。
安藤は「テーマを貫くという姿勢は理解できる。でも私は、異なる多様な見方を受け入れる『あいまいさ』は日本人の美点であり、今の世界に必要な態度ではんあいかと考える。作品を絞り込む過程で、この意見を伝えた。折り合わない部分もあったが、いい議論ができた」と振り返る。「寅さん」の不在は、他者と踏み込んで交流する難しさとおもしろさ、そして意義を改めて照らし出す。 =敬称略 (山口宏子)

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