3月19日 彩の国 選択(下)「18歳選挙権」から3年

東京新聞2019年3月15日26面:模索続く主権者教育 10代投票率下落傾向に歯止めを 「この新聞記事を読みながら、どの候補者が一番良いか話し合ってください」2月末のある夜。県立いずみ高校(さいたま市中央区)公民科教諭の華井裕隆さん(44)が声を掛け、この日の「授業」が始まった。場所は、高校とは異なる東京都内の大学施設の一室。集まったのも高校生ではなく、自主的に集まった関東地方各地の公民科教諭ら。市民団体「けんみん会議」(事務局・行田市)が昨年から定期的に開いている教員向けの主権者教育のワークショップだ。この日のテーマは、2017年5月にあったさいたま市長選。争点や3人の候補者の主張をまとめた新聞の連載記事を読み、投票したい人を考え、意見を交わす。「自分は現職の意見に共感する」「でも、この事業は本当に採算が取れるのかな」題材は、華井さんが過去に実際の授業で扱ったものだ。教員たちが生徒役に徹していたのは序盤だけ。議論は次第に、教員目線での内容に移ったていった。 「この資料だけじゃ分からない部分も多く、調べているうちに時間が過ぎてしまう」「ほとんどの有権者はこのレベルの資料も見ないで判断するから、これくらいがリアルでしょ」「自分はニュース映像で使うけど先生は使いますか?」 途中から華井さんも教師役を離れて議論の中へ。「教材はもっとかみ砕かないといけなかった。候補者がどんな人かなど、政策以外の情報を含めることも考えないといけませんね」。ワークショップを終え、充実した表情で振り返った。
「けんみん会議」は「政治と教育をつなぐ」をテーマに17年に結成された。主権者教育に長年取り組んできた華井さんのほか、教員以外の立場で政治教育に関わる市民団体や研究者らがメンバー。地方選挙の争点まとめなど、補助教材の作成や後悔もしている。背景には、結成前年の選挙権年齢の引き下げがある。18歳以上なら高校生でも投票できるようになり、主権者教育が注目を集めるようになった。一方、現場の教員たちは手探りの状況が続いていた。
参加者の1人で主権者教育に熱心な都立高島高校の大畑方人教諭(42)は「公民科の教諭は学校に1人か2人しかいないことが多く、校内で授業に関する深い議論はあまりできない」と指摘。この日のワークショップのように、他の教諭の取り組みを知ることができる場の意義は大きいという。管理職や教育委員会が注視する「政治的中立性」の難しさもある。「勉強していない教員にはハードルが高い」と大畑さん。華井さんも「悩んでいる教員は多い」と話し、工夫し合っていく必要性を指摘する。ただ、教員が研究を重ねても、若者の投票率にどこまで反映させられるかは疑問だ。
さいたま市内の18歳では、選挙権年齢引き下げ後の最初の選挙だった16年7月の参院選こそ60.24%(全年代投票率53.58%)と6割を超えた。しかし、17年10月の衆院選では50.29%(同52.60%)に下がり、19歳の投票率は39.97%とさらに低かった。18歳の時に投票した人でも、翌年には投票しなくなった傾向が見て取れる。埼玉大社会調査研究センター長の松本正生教授(政治意識論)は「このままでは18歳での選挙が『1回体験したら終わり』の通過儀礼になっていまう」と現状を危惧する。「投票する若者は親と一緒に行くことが多く、親の投票先に影響を受けやすい」とも。国政選より情報が少なくなりがちな地方選では、自分で投票先を考えるのはさらに難しくなる。「けんみん会議」のメンバーで埼玉ローカル・マニフェスト推進ネットワーク事務局の原口和徳さん(36)は「主権者教育をブームではなく、持続可能なものにしたい」と話す。本当の効果が分かるのは10年、20年先の話。教員らの模索は、まだ始まったばかりだ。

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