3月15日 バブル崩壊をたどって「5」

朝日新聞2019年3月11日夕刊2面:大和銀NY事件の裏側 藤田彬・大和銀行頭取の報告を聞いて、西村吉正・大蔵省銀行局長はおもわず、「タイミングが悪いなぁ」と口に出してしまった。「今は日本の銀行に対する国際的な評価が最低になっている」 1995年8月8日夜、東京都港区にある同行の迎賓施設「白金寮」でのことだ。同行のニューヨーク支店員が無断で米国債を取引し、1100億円もの損失を出ている。そんな不正を告白する手紙が当人から頭取に送られてきた、という報告だった。
銀行局長は「事件が今明らかとなることは時期が悪すぎる」と考えているようだー。大和銀行側の出席者はそう受け止めた。実際、そのとき日本では前例のない金融破綻の連鎖が進行中だった。7月末にコスモ信組が破綻。次は兵庫銀行か木津信組かとささやかれた。西村さんによれば、「タイミングが悪い」の真意は別のところにあったという。「10年も前から積み重なっている不祥事が、なんで今、問題になるのか。この間、大和銀行は何をしていたのか」。そう思ったのだという。
「損失公表の先延ばし」の意図はなく、むしろ、8月末に兵庫銀行と木津信組の破綻処理を発表するのと同時に大和銀行の損失を公表するも、一案としてあり得た。そのほうが、一気にも問題を片付け、「山を越えた」との印象を世間に与えられる。しかし、大和銀行側は「伝票が3万枚もあり、内部調査に時間がかかる」と言い、「発表は11月末か12月初めにしたい」と申し出た。「それはあまりにも遅すぎる」と西村銀行局長が意見し、その結果、藤田頭取は「10月初に公表したい」と言った。
西村銀行局長は「情報管理を徹底して」と大和銀行に求め、会談は終わった。大和銀行の当時の役員によれば、これ以降、藤田頭取はまるで「タイミングが悪い」という言葉の「マインドコントロール」にかかってしまったのかのにように、情報漏れに神経質になった。米国への留学経験のある企画部員から「対応の遅れは当行の致命傷となる懸念あり」との指摘があり、8月16日、「米国の法律事務所に相談する」との方針を決めた。しかし、藤田頭取はその夜、それにすストップをかけた。「情報を担当職員レベルまで下すのもまかりならない」と注意し、「外部への相談は軽々に行ってはならない」と常務を叱りつけた。
結局、大和銀行が米当局に損失を報告したのは9月18日。この報告遅れを理由に、大和銀行は、刑事訴追されて358億円の罰金を科され、米国を追放された。役員らは株主代表訴訟の一審で巨額の賠償を命じられた(2億5千万円でのちに和解した)。元役員の一人は今月、取材に「的確な指導をできなかった大蔵省銀行局」の非を指摘しつつ、「頭取がしっかりしていれば、というところはあります」と振り返った。この事件によって大蔵省の金融行政の権威は失墜。企業統治やリスク管理、情報開示の重要性が広く認識されるようになった。(奥山俊宏)

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