3月15日 がんとともに「患者風」吹かせ自由に生きていい

朝日新聞2019年3月11日21面:がんになった緩和ケア医・大橋洋平さん 弱音吐いてもしぶとく■傾聴がケアの本質 三重県在住の緩和ケア医、大橋洋平さん(55)が昨年末の本紙「声」欄で、がんになって実感した苦しみを告白し、闘病する人へ「しぶとく生きて!」と呼びかけました。そのメッセージに励まされた読者からの投稿が寄せられるなど、反響が続いています。いまも非常勤医として働き、患者としても治療を受けている愛知県弥富市の南海病院に、本人を訪ねました。私の胃に見つかった「消化管間腫瘍」(GIST)は10万人に1~2人と言われる希少がんです。胃をほぼ全摘する手術で一応切除し、転移もなかったんですが、調べると悪性度や再発リスクが驚くほど高かった。手術後は半年近く、本当に食べられんかった。食道と胃の間のキュッと締める部分がないから消化液が逆流し、寝る時も椅子に座ったまま夜明けを迎えることが何日も続きました。食べなきゃと焦っても、小さいスプーン1杯が限界。なのにヨメさんは茶わんに半分もよそってくるから「そんな持ってくんなっ!」と怒鳴ってしまって。昔、患者さんが同じ文句を家族に言う姿を、冷ややかに見ていたのを反省しました。
100㌔以上あった体重が40㌔も落ちてしまった。でも、ずっと家にいたって治るわけじゃない。16年前に飛び込んだ緩和ケアの世界で、自分が生きる意味を見いだせばと週2~4日、午前中だけ、うちの病棟を検討する人向けの「相談外来」をやらせてもらっています。こんなやつれた医者を前に不安になる人もいるかもしれませんが。昨年末のCT検査で転移再発は認められませんでしたが、抗がん剤治療中です。死を強く意識するようになり、3ヶ月後や半年先のことは考えられず、ガラケーは解約、自分の車も手放しました。この立場になって実感したのは、ホスピス緩和ケアの領域で唱える「よりよく生きる」「その人らしい人生を支える」という理念は、かなり医療者目線ではないかということ。「よく」なんてもってのほかで、以前のようにすら生きられないです、私は。
すでに体が変わってしまったのに「自分らしく」も、難しい。もう、わがままに生きていいと思うんですよ。「患者風」を吹かせ、好きなように自由に生きればいい。弱音を吐いたっていいじゃないですか。やっぱり終末期って苦しいはずです。体は弱って、家族に迷惑をかけていると気に病んで、「生きてても意味がない」と悩む。死を間近に感じて激しく葛藤しながら、それでも新しい生き方を見つけねばならない。それほ本人しかできないことなんです。
どんなに患者さんを理解して寄り添おうとしても、その苦痛は医療者にはわかりません。「傾聴」というスキルがあります。ひたすら聴くんです、しゃべらずに。そうやって、それぞれの価値観で物事が決められるよう気遣い、支える。私は技術を学び実践してきたつもりですが、病を得て、これが緩和ケアの本質だと身に染みて感じます。 実は昨年12月ごろから、ほんの少し食べられるようになったんです。それまでは医者としての経験上「食べられないと死ぬ」と執着してきた。それでもダメで、食べるのをあきらめたころに口にできるようになりました。不思議ですが、胃がん患者が読む本に「体が慣れてくる」とある。そんな話、医学の教科書にはありません。「食べんでも生きられるな」と思えて、気持ちが楽になった。ボチボチ生きる気になった時、ヨメさんが「しぶとく生きたらいいんよ」って。彼女に言わせると、そのころかわ私、言いたいことが言えるようになったみたいです。
こうして半年間生きたことを振り返る意味を込めて、新聞に投稿しました。掲載後に昔の仲間から連絡があって「年賀状代わりになったね」と喜んでいたら、見知らぬ読者の方からの投稿までいただいて。私こそ生きる励みをもらい、お礼を言いたいぐらいです。(聞き手・高橋美佐子)
大橋さんの「声」欄への投稿 2018年6月、胃に悪性腫瘍が見つかった。今は抗がん剤治療中だ。私は終末期がん患者に関わるホスピス緩和ケア医で、誰より患者とその家族に寄り添えると思ってきた。でも自分がなって初めて「患者のリアルな苦しみ」に気づいた。本当に手術できるのかと苦しみ、手術後は管を何本も付けられて30㌢もある傷の痛みに苦しみ、退院してからは胸やけや吐き気、食欲不振に苦しむ。でも私は生きている。「がんになってもよりよく生きる」とホスピス緩和ケアの領域で言われるが、「よく」など生きられない。確実に弱っているからだ。でも、これからをしぶとく生きていく。全てのがん患者に「しぶとく生きて!」とエールを送りたい。(同年12月29日「声」欄より要約)

 

朝日新聞ASAの伸光堂西部販売 森林文化協会

ご予約・お問い合わせはお気軽に

Tel0120-740-276

〒352-0011 埼玉県新座市野火止8-14-29

ページトップへ戻る