3月12日てんでんこ 祭人「7」桜咲く

朝日新聞2019年3月7日3面:「太鼓打ちたい」と単身で被災地に残った。空気を震わすおとが鼓舞する。 太鼓練習場前の桜の幼木が、岩手県釜石市唐丹町の遅い春を待つ。植えられたのは4年前で、昨年は葉桜だった。地元の和太鼓集団「鼓舞桜会」の会長、佐藤勇人(49)は、シカの食害防止ネットに囲まれた木の成長ぶりを確かめた。「今年は初めての花を咲かせてくれるはずだ」。背後に東日本大震災を受けて高くなった防潮堤がそびえる。海側の建物はこの練習場だけだ。
演奏する「桜舞太鼓」は3年ごとに催される地区の祭りのため、青年らが66年前に創作した。桜の花びらが舞い散る様子をイメージした一糸乱れぬばちさばきが特徴だ。8年前の津波では、メンバー1人が犠牲になり、29張の太鼓すべてを流された。だが、がれきの中から太鼓を掘り出すなどして、3ヶ月後に活動を再開した。佐藤は高校卒業後、横浜市の機械製造会社に就職した。「太鼓をたたける年齢のうちに」と地元への転勤を希望し、戻ってきた。震災で自宅と職場を失い、妻は長男と長女を連れて神奈川県の実家に移ったが、「太鼓を打ちたい」と一人だけ残った。
空気を震わす佐藤らの太鼓の音が励ますのは地元だけではない。市全体を鼓舞する。「鉄のまち」として発展した釜石は、製鉄所の合理化から1989年に高炉の火が消えて一気ににぎわいを失う。活気を取り戻したいと若者が始めた夏祭り「釜石よいさ」へ、創作太鼓に力を入れる佐藤らは参加した。震災後は仮設住宅などに呼ばれた。三陸鉄道南リアス線が震災から3年後に全線開通した歳も地元の駅前で演奏した。震災後復活したよいさでも再び演奏を続ける。
佐藤は仮設住宅から市中心部にできた災害公営住宅に移った。一人暮らしは続く。震災後は地元から離れたが、県と市の補助金で4年前に建てた練習場には車で通う。「伝統と独自のものを後世に残したい。少子化だけど仲間を増やして」 2000年に結成した鼓舞桜会のメンバーは39人に増えた。最年少は今春に小学校に入学する男児だ。そしてこの春、手踊りの女性にも県外の若者が加わることになった。長く離れて生活する佐藤の長女だ。地元の高校への進学をきっかけに引っ越してくる。太鼓で復興を後押ししてきた佐藤の一人暮らしにも、終止符が打たれる。 (山浦正敬)

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