3月12日 大槌の保育園長 後悔と問いかけ

朝日新聞2019年3月7日30面:子どもたち引き渡した判断はー 津波で9人犠牲。多くが保護者とともに 東日本大震災当日、保育園や幼稚園が保護者に引き渡した園児が、その後の避難中、津波にのまれて亡くなった例が相次ぎました。岩手県大槌町の認可保育園「大槌保育園」もそうでした。八木沢弓美子園長(53)は、地震による津波の際の引き渡しについて、8年が経つ今も議論が進んでいない現状に、疑問を投げかけます。
ー震災前から、熱心に避難訓練をしていたと聞きます。 定期訓練とは別に、事前に職員にも知らせない抜き打ち訓練もしていました。町が1次避難場所に指定した空き地は雨風をしのげず、子どもの足で歩いて15分はかかった。自治会と相談し、高台のコンビニを独自に津波避難場所と決め、保護者にも周知し、5分で走る訓練を繰り返していました。 ー震災では、避難したそのコンビニにも津波が? 当日は、110人ほどの園児を20人の職員で避難させ、保護者が迎えに来た順に引き渡しました。約70人の子どもをコンビニ前で渡した時点で、ふと見た水門が決壊していて津波だと気づきました。残った40人ほどの園児と山の急斜面を四つんばになって登り、何とか助かりました。 ー一方で、引き渡した園児のうち、9人が津波の犠牲になりました。多くが保護者とともに亡くなりました。最後に引き渡した子どもは、遺体安置所で小さな右手を見たとき、すぐわかりました。保育士を辞めなければならないと思った。今でも。その子が「こわい」と言って、私の左足にしがみついていたあの日の感触がよみがえることがあります。 ーほかの子どもたちに変化はありましたか。 震災半年後に子どもたちみんなで話し合う中で、初めて亡くなったお友達の名前が出ました。ある年中の女の子が、「なんで津波が来たんだろう」と語り始め、「園長先生がさ、(犠牲になったTちゃんたちに)『おうちへ帰らないで!』と言いました。初めてぶつけてきた本心でした。「Tちゃんに会いたい」と言って、私も含めみんなで号泣しました。
ー震災後に決めた園の災害時の備えは? いつでも避難できるように昼寝時のパジャマへの着替えをなくし、入園式の時には、保護者の方たちに「津波の際の引き渡しはしません」と明確に言って了解を得ています。 ー全国では、地震などを想定して、全員の保護者が職場から来るのを縁で待つ「引き渡し訓練」を実施する園も多いです。昨年、静岡に講演で呼ばれた時に、そういったくんれんがあると初めて知りました。海から200㍍の園の園長が「うちの園で全員を守るのは難しいから、すぐ親に引き渡せばいいんですよね」と話していて、危機感を感じました。津波などの災害時、安全な場所や避難経路は刻々と変わります。現場にいる私たちが、そのつど判断をし、行動をとらないと、子どもの命を守ることはできません。迎えに来る保護者が、途中で被災するリスクもあります。
ーただ、施設側が誤った判断をした場合、逆に命が守れない危険もあるのでは。教員と避難中に児童が犠牲になった大川小の例もあります。もちろん、全国の全ての園に当てはまるわけではありませんが、うちの園では引き渡さないことが「ベスト」です。9人のことを思い返しながら、職員どうしで何度も話し合って決めました。子どもを預かる施設で、どう対応するかを本気で議論することは、完全に大人の仕事です。私は、自分の判断の責任を、一生背負っていかなければならないと思っています。(聞き手・田渕紫織) *写真は大槌保育園の八木沢弓美子延長=岩手県大槌町
保育中の犠牲3人、引き渡し後120人 岩手・宮城・福島 検証不十分 進まぬ指針作り 岩手、宮城、福島の3県で、東日本大震災時、保育中に犠牲になった保育園児は3人。一方で保護者への引き渡し後に犠牲になった園児の数は、3県で120人(休みで自宅にいた園児も含む)いた。しかし、津波時の園児の引き渡しについては、国で統一した定めがなく、震災後も検討されていないという。厚生労働省の担当者は「園の立地場所や保護者との関係は様々なため」と理由を説明する。震災と保育に詳しい元・名古屋短大教授の津野牧さんは「引き渡した後に子どもが犠牲になったことがトラウマとなり、保育士も口を閉ざしてきたため、検証が不十分なままだ」と話す。一方で、災害時を想定し、職場から迎えに来た保護者に全員を引き渡すまで園で待つ「引き渡し訓練」が、多くの保育園や幼稚園で、定期的に行われている。幼稚園については、震災後に文部科学省が出したマニュアルで、津波など限られた時間で対応が迫られる場合、「引き渡さず、保護者と共に学校に留まることや避難行動を促すなどの対応も必要」としているが、野津さんは「ほとんど浸透していない」と指摘。「国の責任で、自治体や各園に、指針や研修の整備を促すべきだ」と話す。

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