3月11日 終わりと始まり 池澤夏樹

朝日新聞2019年3月6日夕刊3面:普天間基地の移設先 馬毛島に変更一考を 沖縄の県民投票の結果が出た。投票率は5割を超え、普天間基地の辺野古への移設に反対する票が72.15%に上った。ちなみに2017年の衆院議員選挙比例区における自民・公明の得票率は45.79%である。どちらも民意の反映。それでも安倍政権はこれを無視すると言う。投票の前からそう公言していたのはこの結果を予想していたからかもしれない。国策はどうせ変わらないのだから投票など無駄だよという県民への牽制。あるいは軽侮。
政治の話には他にも論者がいるだろうからぼくは現実論に行こう。埋め立てによる辺野古基地の建設は事実上不可能である。大浦湾側、予定海面の6割の海底は地盤がマヨネーズと言われるほど軟弱で、いくら土砂を投入しても固まらない。滑走路など造れない。工法がないわけではないと政府は言う。まず鋼菅を打ち込んで、中の泥土を吸い出し、そのあとに砂を流し込む。突き固めた後で鋼菅を抜く。泥土の一部を砂の杭で置き換えるわけだ。なるほどと思うけれど、その砂の杭の数が7万6699本。しかも現場は水深30mの海底の下に軟弱地盤が60m超で、国内では前例のない難工事になるという。
先日の「朝日川柳」欄に「割り箸も楊枝も立たぬマヨネーズ」というのがあったが、正にそのとおり。県の推定では予算は2.5兆円に上り、工期は少なくとも13年に及ぶという。その間に普天間で事故が起きたらずさんな計画で移転を先延ばししてきた政府はどう責任を取るのか。埋め立てと地盤沈下では関西空港の例が思い出される。あそこも軟弱で完成後も沈下が止まらずに苦労した。滑走路一本の空港の開港までに建設費は1兆5000億円に達し、高額の着陸料に跳ね返った。辺野古はそれを超える。普天間の移転先として、短期間の工事で実用化が可能、付近住民の危険がなく、騒音問題もなく、使い勝手も悪くないという候補地がある。
鹿児島県種子島の西12kmのところにある馬毛島。提案の理由を述べるー 1 島ながら普天間基地より七割ほど広く、4000mの滑走路が造れる。 2 西之表市から遠いので騒音はあっても遠雷程度。滑走路は南北方向だから飛行機は市街地の上を飛ばない。 3 嘉手納から580km、岩国から400km。連絡機で通勤可能な距離だ。 4 東シナ海にも太平洋にも出やすいのは普天間と変わらない。訓練空域も確保できる。 5 地形が平坦で小さな丘を削るだけ。たぶん二年で完成。 6 近々国有地になる見込みで、そうそればすぐにでも着工可能。
普天間基地の危険についてはアメリカだって不安に思っているはずだ。2004年の沖縄国際大学ヘリ墜落事件は幸いにも夏休みだったので民間の人的被害はなかった。1959年の宮森小学校の時は奨学生11名を含む18名が亡くなっている。60年前の話だが、それは60年間に亘って沖縄で危険な事態が続いているということだ。どんなに用心しても事故は起こる。すべての事業は事故の可能性を組み込んで運営されなければならない。原発が実用的でないのは事故を想定した時に帳尻が合わないからだ。民間の保険会社は原発を相手にしない。同じように軍事基地も相手にしない。ここで大浦湾の軟弱地盤の存在が明らかになったのは好機ではないか。マヨネーズの比揄はアメリカ人にもよくわかる。勇猛果敢の海兵隊の足元がマヨネーズではね。
こういう事態になりましたから、辺野古は諦めて馬毛島に行きませんか、と説得してはいかがか。10年以上も待たないで済みますよ。交通至便、環境絶佳、すぐにも入居。こんないい物件は他にはありまん。(ほとんど不動産屋の口調だ。) 馬毛島という具体的な地名は一般の人々には唐突かもしれないが、ごくは1997年にこの島を地図で見つけて、普天間基地の移転先として提案してきた。
無人島で、島のほとんどが民間所有だが、政府はここを購入して自衛隊の基地にする方針を立てている。在日米軍との共同使用の話もあるという。もう一歩だ。日本にアメリカ海兵隊の吉が必要かどうか、その議論は別にしよう。この何10年か喫緊の課題だったのは普天間の危険だ。県外と言ってもどこも手を挙げない。もっともコストが低くリスクの少ないところを探してぼくが見つけたのが馬毛島だった。全日本国民諸君、ご一考を。 ◇池澤夏樹さんの「終わりと始まり」は4月から、朝刊「文化・文芸」面に掲載します。

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