2月28日 サザエさんをさがして ハイヒール

朝日新聞2019年2月23日be3面:太陽王も愛したハレの靴 ハイヒールは女性とともに歴史を歩んだ靴とばかり思っていたら、大間違いだった。あの、ルイ14世がハイヒールを履いていた。三百年前にベルサイユ宮殿を築き、栄華を極めたフランス国王である。その姿はルーブル美術館に所蔵される肖像画に描かれている。美へ並々ならぬ執念を見せた太陽王がバレエで鍛えた脚線美を見せつけ、堂々と、優雅に、モデル立ちしている。その足先にハイヒールがある。17世紀ごろ、美に力を注ぐ王侯貴族たちに、性別を問わず愛されたのがハイヒールだったのだ。当方男性44歳、足のサイズ27㌢。絶対王者の後ろ盾を得た今、取材のためには一度、経験せねばならぬと思った。「ハイヒール? 28㌢まであります」と電話口の店長さんが言うので東京・新宿の大きい靴専門店「テン」へ。
人生初のハイヒールは本革の黒。肌色のストッキングを借りて履き、立ち上がった瞬間、ふらついた。ヒール高8㌢。少し両手を広げ、平均台の上を歩くときのように右、左と慎重に足を出し、まずは姿見の前を目指す。見てはいけないものを見るような女性客の視線を気にする余裕は、ない。鏡に映る自分の立ち姿はー。なかなかのものだった。2割増しと自己評価した。それにしても、ひざはがくがく、足首ぐらぐら、生まれたての小鹿はこんな不安な気持ちだろうか。店内を1往復2往復するうち、足も痛み出した。
おしゃれにためには、苦痛もやむなしでしょうか?「ハイヒール・マジック」の著書がある一般社団法人日本ハイヒール協会理事長のマダム由美子さんに会うと、「痛みがあれば、おしゃれではありません」ときっぱり言う。5千人にハイヒールの履き方や歩き方をレッスンしてきた経験では、ほとんどの人が選び方から歩き方まで、間違っているという。「ハイヒールの歴史が日本ではまだ浅いこともあるかもしれません」日本でのハイヒール定着は、ルイ14世の時代から3世紀ほど時代が下った1950年代、一般家庭から皇室に入った美智子さまの影響が大きいという。婚礼時はもちろん、熱帯のジャングルにまで、ハイヒールで踏み込んでいた写真が残っていた。
サザエさんの足元も時代とともに変化していく。46年の新聞連載開始からしばらくはゲタやサンダル姿も多かったが、60年代になると百貨店などのハレの場に、ハイヒールで出かけていくようになる。「長年染みついた歩き方を変えるのは難しい。ぞうりのように引きずってはいけません」。マダムが強調するポイントは足指をしっかり伸ばして履くことだという。
昨今はスニーカーブームあり、女性にハイヒールを強いる社会へのネット批判あり。時代はぺったんこ靴に向かっているらしい。楽なほうへ時代が進む現状を、マダムは「寂しいですね。ハイヒールは知識を必要とする靴ですが、履きこなしているということは正しい姿勢や歩き方が身についている証し。シャンと歩く姿は美しく、自信にも満ちています」。サザエさんはハイヒールの痛みに耐えていたのか、それともさっそうと履きこなしていたのか。掲載作に、もしカツオを追いかける姿を描いた5コマ目があれば、判断できたはず。今となっては想像するしかない。(斎藤健一郎)

朝日新聞ASAの伸光堂西部販売 森林文化協会

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