3日 オトナになった女子たちへ

朝日新聞2017年6月30日31面:ある朝の胡麻和え 「う、うまい・・!」うちで、朝ごはんに出たほうれん草の胡麻和えが妙においしかった。緑色が濃い、小ぶりのほうれん草を白練り胡麻と白だしであえた・・というより、「整えた」感。お店みたいな味なのだ。それは近所の居酒屋ではなくて、都心の小料理屋みたいな。カウンターが見えた。中で白い調理依の店主が無口に微笑んでいる。小中高と運動部にいたようなガタイをして、ヤンチャな頃もあったんだろうか、ちょっと賭け事が好きで、朝だまって出かけちゃうこともあるけれど、ええ、仕込みだけは絶対手ぇ抜きません、という感じで・・と、妄想しちゃうくらい、おいしい。
「あら、ありがとうございます」 店を手伝う店主の奥さんみたいに、ヨシダサンが言った。作ったのも出したのもヨシダサンだが、奥さんみたいにフフっと。
「うーん」唸った。わたしがいうのもなんだけど、ヨシダサン、確実に料理の腕をあげてきた。和え物みたいな、なんともないものが、うんとおいしい。
実は、腕もあがるはずで、半年以上、ヨシダサンが台所を仕切っている。つまり、半年以上、料理をつくっていわたし。あ、パスタ2回くらい茹でたかな。そういえば、アッサリと「台所権」を譲ってしまった気がする。よかったのだろうか。大事な権利ではなかっただろうか。ドッキとする。
(この時、歴史は動いた)と、心にナレーションが流れた。すみません、最近、録画してあったNHK特集「新・映像の世紀」を見始めて、頭がNHK脳なのだ。番組が違うけど。100年の人類の歴史を、映像でお追っている。
「ある朝、ほうれん草の胡麻和えが妙にうまかった」は、ヨシダ家の未来を変える出来事かもしれない。目をつむる。未来だ。「お母さん、ご飯作らない時あったよね!」 ハタチくらいのムスメが言う。いや、「へ? お母さんて、料理作っていたことあったの?」かもしれない。やだ、わたしに顔そっくりだ。胡麻和えで妄想が止まらない。 伊藤理佐(漫画家)

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