25日 私の十本 吉永小百合

東京新聞2017年7月23日2面:北のカナリアたち【上】 坂東玉三郎監督「夢の女」(1993年)の後、吉永小百合さんは「女ざかり」(94年)、「霧の子午線」(96年)、「時雨の記」(98年)、「長崎ぶらぶら節」(2000年)などで主演した。監督はそれぞれ異なるが、共通しているのは、原作が文芸作品だということだ。95年に50歳になり、女優として円熟期を迎えた吉永さんが、自分にぴったり合う役柄を選ぼうとしている姿勢が、よく伝わってくる。
「『時雨の記』は、原作を読んでぜひ映画化したいと思い、自分から積極的に動きました。それ以来、映画への関わり方が少し変わりましたね。役を演じるだけでなく、企画段階から参加していくことも増えました」
「時雨の記」の原作は芥川賞作家、中里恒子さんの小説。安定した暮らしをしている中年の男女が、20年ぶりに再会し恋に落ちる物語。日活時代以来、29年ぶりとなる渡哲也さんとの共演も話題になった。
「もう残り少ない映画人生ですからね。自分で納得するかたちでやりたいという思いもあります。それに、プロデューサーでも何でも映画に携わる人が少なくなっていますから、自分もスタッフ補のつもりで、準備段階からやれることがないかって常に考えています」
「北の零年」(05年)、「北のカナリアたち」(11年)、そして来年公開が予定されている「北の桜守」と続く”北の三部作”も、こうした吉永さんの思いが実を結んだ作品だ。吉永さんが「最も信頼する脚本家の一人」という那須真知子さんが、三部作すべての脚本を執筆している。
「那須さんとは『霧の子午線』で初めて一緒に仕事をしたんですけど、とてもさっぱりしている方で、すぐ気が合いました。女の微妙な気持ちも分かってくださる一方で、骨っぽいことを書ける方だと思います」 三部作の第一作、行定勲監督「北の零年」は、明治の初め、政府から北海道移住を命じられた淡路島・稲田家の家臣とその家族らの苦闘の物語だ。撮影期間中に、乗馬コーチが急死するという悲しい出来事もあった。
だが、渡辺謙さんとの共演など、大きな収穫もあった。「謙さんは、すごく役を掘り下げる方なんですね。そういう意味では松田勇作さんと共通しているんですが、勇作さんは感覚的、謙さんは演劇的というかな。共演するといっぱい刺激を受ける、大好きな俳優さんです」 三部作の第二作、坂本順治監督「北のカナリアたち」は、東映創立60周年を記念して企画された大作だった。
吉永さんが演じるヒロイン川島はるは、北海道最北端の離島で分校の教師を務めている。だが、ある夏の日、悲しい事故が起き、はるは島を去ることになる。20年後、東京で働く彼女に、分校時代の教え子が殺人事件を起こしたという知らせが届く。はるは真偽を確かめるため、北海道に向かうというストーリー。
吉永さんにとって、長年の”宿題”への答えという意味もあった。「『二十四の瞳』のリメークを、いろいろなかたちでオファーされてきました。そのたびに、あの名作はとてもできない、高峰秀子さんが演じた大石先生は私にはできない、とお断りしてきました。『北のカナリアたち』はサスペンスですけれど、教え子に対する先生の思いという精神は同じですね。昔の『二十四の瞳』と同じようなかたちで作っても、今の若い人たちには受け止めてもらえなかったでしょうし、そうした意味でも、この作品で『はる先生』を演じることができて良かったと思います」(聞き手=立花珠樹・共同通信編集委員)

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