24日 ピケティコラム トランプ氏はUFOか

朝日新聞2017年6月21日13面:共和党の歴史振り返ると 米国史上、トランプ(大統領)はUFOにような存在なのか? あるいは昔ながらの党派色が生み出した産物とみなすできるのか? 「ドナルド」という人物とこの類いまれなツイーツ術がかなり特異であることを、あえて否定しない。それでも、過去から受け継いでいる要素が勝っていることは、認めざるを得ない。
先ごろ、議会に提出された税制改革案がそのことを物語っている。中心となる政策は二つある。一つは、法人税率35%から15%に引き下げること。トランプ自身にような個人事業者の所得にも、この税率を適用しようとしている。そして、相続税を完全に撤廃することだ。この改革案は確かに、累進課税を解体しようとレーガンが1980年代に着手した政策の延長線上にある。
歴史をさかのぼろう。米国は10~20年代に、歴史上、例のないレベルの累進性をもつ税制を実施した。不平等の広がりと財産の過剰な集中を阻むためだ。当時は、米国の民主主義精神に反するものと見なされていたからで、かつての古い欧州の二の舞を踏まないためにでもあった。米国からすると、19世紀やベル・エポックの欧州は、貴族的で募頭政治と映っていた。そう見るのも当然なのだが、不平等を縮小しようとする大きな流れに沿って、所得税と相続税が導入された。1930~80年は、最高所得に課された税率は平均82%で、最大規模の遺産の相続に対する税率は、70%に達した。
80年、レーガンの大統領当選で、事態は一変する。86年の改革で、所得税の最高税を28%まで引き下げた。ルーズベルトのニューディール政策から生まれた社会政策に背をむけた。これらの政策は米国の力をそぎ、敗戦国に追いつかれる原因になったと批判された。そんなレーガンも高い法人税と、強い累進性のある相続税は維持した。レーガン政権から30年、ブッシュ(息子)が最初に相続税を廃止しようとしてから10年、2017年にトランプは大企業と最富裕層に新たな贈り物を差し出す。それも、オバマケア(医療保険制度改革)の撤廃手続きをとったうえでだ。
議会がトランプに追随する見込みは十分にある。共和党も「国境での課税調整」と呼ばれる措置を加えようとはするだろう。これは、課税対象所得から輸出で得た分を控除し、逆に輸入分は控除しないという、かの有名な「ライアン・プラン」だ。この法人税と欧州式の付加価値税を混ぜ合わせた手法は前代未聞で、むしろトランプの望むところだろうが、すでにWTO(世界貿易機関)の怒りを買った。スーパー最大手のウォルマートといった輸入業者の怒りも買い、こちらの方が厄介だ。理論上、(輸入企業の税負担が増す)この措置は、ドル高で(輸入物価が下落して)中和されるはずだという。しかし実際のところ、為替レートはその他多くの要因で決まるもので、だれもそんなリスクを負いたくはない。
おそらく、特定の輸入品と輸出品にしぼった措置に落ち着くだろう。共和党が米国産業を民主党より保護するというメッセージのために。民主党は腹黒い自由貿易主義者で、メキシコ人や米国を包囲する嫉妬深い人びとへの譲歩に常に応じているというメッセージを打ち出すために。相続税も、法人税率の大幅軽減も、妥協点が見いだされるはずだ。法人税率は15~20%あたりになるだろう。欧州や世界で、また税のダンピング競争が激しくなるかもしれない。
根本的な疑問は残ったままだ。1980年にも2016年にも、あからさまに富裕層向きで社会福祉に反する政策が、どうしてこれほど米国のマジョリティーをひきつけたのだろうか。よくある答えは、グローバル化や国家間の競争で、利己主義が勝利したというものだ。しかし、それだけでは十分でない。共和党の巧妙さがある。国家主義者のレトリックを操り、反知性主義を育み、何よりも民族、文化、宗教間の分裂をあおって庶民階級を分断した。
1960年代にはすでに、南部の白人労働者階級の票の一部が徐々に共和党に移り始めていた。公民権運動や社会福祉政策があまりに黒人寄りだと批判し、不満をため込んでいた層だ。この動きは、長く社会の深層で続き、72年のニクソンの決定的な勝利でも続いた。対する民主党の候補はマクガバンで、相続税の増税で財源を捻出し、連邦レベルでの最低所得補償の制定を提案した。これはルーズベルトの政策の頂点だった。さらに80年のレーガン、ついには2016年のトランプまで続いた。先達のニクソン、レーガンに倣い、トランプはオバマケアに関し、ためらうことなく人種的に糾弾をした。
この間、民主党支持者は高学歴者とマイノリティーにどんどん偏っていき、ついには裕福な白人と解放された黒人といった19世紀末の共和党支持層のようになった。あたかも歴史が大きく一巡し、人種の違いを超えて労働者階級をまとめたルーズベルト連合は、結局はカッコでくくられる例外でしかなかったかのようだ。
欧州も、いくつかの面で同じ展開をたどるかもしれない。労働者階級は自らを守るため、進歩主義を自称する党より反移民勢力に信頼を寄せている。欧州は米国から教訓を学ぼうとすることを願う。そして予想されるトランプ主義の社会的失敗で、「ドナルド」が数多くの前例の轍を踏まず、軽率な国家主義や軍事的突進に突避することがないと、期待したい。(©Le Monde、2017)(仏ルモンド紙、2017年6月11-12日付、抄訳)

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