20日 私の十本 吉永小百合【19】

東京新聞2017年7月16日2面:外科室【下】舞台のしぐさ学ぶ 「50分、1本立て、千円均一料金」の興行が成功した「外科室」の翌年、吉永小百合さんは、再び坂東玉三郎さんの監督作品「夢の女」(1973年)に主演する。今回の「外科室下」では、「夢の女」を通じて玉三郎さんとの交流を聞いた。永井荷風の同名の短編小説を、俳人で劇作家の久保田万太郎が新派のために脚色した舞台用の台本を基に映画化。明治時代後期、元々は武士の家の娘だったヒロインお浪が、貧しい家族を助けるため苦界に身を落とし、その後も波乱の人生を歩む物語だ。
玉三郎さんは作品を、カラーではなくあえてモノクロの映画にした。「『夢の女』のシナリオを読むと、私は10代後半のお浪から演じることになっているです。現実の私は40代後半になっているんですから、いくら何でも無理ですって、抵抗したんですよ。そしたら、玉三郎さんが『モノクロで撮るから大丈夫よ』っておっしゃるんですね。もちろん、それだけがモノクロにした理由じゃなくて、あの時代を表現するためには、モノクロがふさわしいと思われたんでしょうが・・」
出演をためらった理由は、もう一つあった。「『夢の女』のお浪は、玉三郎さん自身が舞台でやっていらっしゃる役なんですよ。『外科室』は、ご自身ではやっておられない作品でしたけど、『夢の女』は、玉三郎さんの世界なんです。それを私ができるかしらという不安もありました」
だが、今回も「外科室」の時と同じように、玉三郎さんの熱い思いが吉永さんを動かした。「お浪は変転の人生を送る中で、一時は花魁になるんです。花魁の役は初めてでしたから、所作なども全く分からなくて、全部玉三郎さんに教えていただいきました」それだけではない。この映画に出演したことで、着物の着付けや、女性らしいしぐさについても玉三郎さんから学ぶことができたという。
「振り返る時に、首だけで後ろを向くと、どうしてもクビにしわが出るわけです。そうしないで、腰から後ろを振り向くときれいなんです。これは舞台のセオリーらしいですね。そういうことを教えていただきました」映画ではヒロインの顔をアップで撮ることも多いが、舞台では常に観客から全身が見える。そうした違いが、体の動かし方に対するセオリーにつながっているのだろう。
「『夢の女』を撮っていた頃、私は本当に水泳に夢中で、二の腕から肩あたりに結構筋肉がついていたんですよ。玉三郎さんに『逆三(角形)になるからそれ以上やらないでちょうだいよ」と言われましたね(笑)。玉三郎さんも水泳がお好きなんですが、背泳ぎしかしないとおっしゃっていました。背泳ぎだけだと、二の腕から肩にはそれほど筋肉がつかないということらしいですね」
完成した「夢の女」は、時代や境遇に翻弄されながら懸命に生きていく女性の悲しみや美しさを、見事に描き出した作品となった。共演した樹木希林さんは吉永さんとの対談の中で「『夢の女』という作品が、私は好きですね」「最後のシーンは、玉三郎さんもじっくり撮っていたし、それに応えられる小百合さんは、やはり伊達に主演女優をやっているわけではないなあと思いました」(「夢の続き」集英社文庫)と絶賛している。
「玉三郎さんは、普通の映画監督にはない感性を持っていらして、歌舞伎や新派のノウハウを取り入れ、これまでの映画と全く雰囲気の違う作品を撮られた。今回見直して、さすが玉三郎さんだなと感じました。難しい役でしたが、思い切って挑戦して、映画をご一緒させていただき本当によかったと思っています」
(聞き手=立花珠樹・共同通信編集員)

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