20日 問う「共謀罪」 「共謀罪」のある社会とは

朝日新聞2017年7月14日31面:映画・文学・音楽・・・考えるヒント探る 犯罪の計画段階で処罰する「共謀罪」の趣旨を盛り込んだ改正組織犯罪処罰法。国会審議では処罰対象のあいまいさや「内心の自由」を侵す危険性も指摘されたが、疑問は解消されぬまま、11日、施行された。「共謀罪のある社会」とはどんな社会なのか。創作の世界で考えるヒントになる作品を映画、文学、音楽の3分野の専門家に選んでもらった。
「映画評論家の森直人さんが薦めるのは、トム・クルーズ主演の映画「マイノリティ・リポート」(2002年)だ。舞台は近未来のアメリカ。犯罪を事前に予知できるシステムが導入され、捜査当局は犯行が起きる前に「犯罪者」を逮捕していく。「犯罪を準備段階で処罰することを突き詰めるとどうなるかがわかりやすく描かれている」と話す。森さんはさらに、政府が共謀罪をめぐる議論でたびたび持ち出した「一般人は対象外」という言い分の危うさを考えさせられるという。主人公はシステムを使う側の捜査員だが、ある日突然、「殺人を犯す」とシステムに予知され、身に覚えがないまま「追われる側」になる。
「公開された当時、不条理劇のような展開と思っていたが、嫌疑をかけ権力側が平然と、『一般人は対象外』と語る現実を見ると、この作品が描いた方向に社会が進んでいると実感させられる」 文芸評論家の藤田直哉さんは、「共謀罪」法の成立を「日本社会がかつてないほど、『言葉』を軽んじ始めていることの象徴だ」と見る。注目するのは、「テロ対策のため」「東京オリンピック成功のため」という、政府が法律の必要性の説明で語った言葉と、それに対する社会の反応だ。「漠然とした根拠と思いつつ、何となく受け入れてしまう」。そんな言葉と思考の関係を省みるのに欠かせないのが、英作家ジョージ・オーウェルの小説「一九八四年」(1949年)だという。
ビック・ブラザーという権力者によって個人の自由が奪われた全体主義国家を描いたことで知られる古典的名作だが、注目すべきはこの国家で浸透していた独特の思考法「二重思考(ダブルシンク)」だ。「例えば『戦争は平和だ』『自由は隷属だ』という本来は矛盾した言葉を定着させ、人々が矛盾について考えることを放棄させる。こうした思考が全体主義を支えるとオーウェルは考えていた」と藤田さんは指摘する。「小説で描かれているのと似た思考法に私たちが陥っていないかを考えた方がよい」
一方、ラップ音楽に詳しいライターの磯部涼さんは、ラップの歴史が参考になるという。例えば、米国の人気ヒットポップグループ「N・W・A」のアルバム「ストレート・アウタ・コンプトン」(88年)。発表当時、治安の悪さで知られた西部カルフォルニア州コンプトンからの「直送」を意味する名前の同アルバムは、「怒れる黒人」による政治的なラップの代表作のように語られる。
ただ「ファック・ザ・ポリス」などと歌い、権力に刀向かうものの、実際は女性や他のマイノリティーへの差別的な歌詞も含まれていた。未成年者には不適切とのラベルがつけられたほどだったという。
だが、若い世代からはこの「不適切さ」がかっこいいとして、受け入れられ、支持を獲得。一方で批判を理解し、考えを変えていったメンバーもいた。
「歌詞の意味は、字面ではなく現実とのせめぎ合いの中で決まっていく」と磯部さん。「共謀罪」法にはもともと批判的な立場だが、「成立した後も、日常は続くし、次の選挙もある。委縮するしかないは自分たち次第。ラップの歴史はそう教えてくれる」。(高久潤)

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