2月8日てんでんこ 首長たち「6」

朝日新聞2018年1月30日3面:渡辺は願う。「次の代がきっと、この土地をつないでいってくれる」 福島県大熊町が原子力発電所の誘致を議会で決議したとき、現在の町長、渡辺利綱(70)は中学2年生だった。「税金を納めなくてすむようになる」 そう心を躍らせていた大人たちの姿を覚えている。町の財政は潤い、100歳になると100万円の敬老祝い金まで出た。2011年の原発事故がなければ、町長としてどんなことに取り組んでいただろうか。
そう考えることが時々ある。東京電力福島第一原発の1号機は、その年の3月26日に運転開始から40年を迎えることになっていた。脱原発はいずれ欠かせないこと、積み立てた5億円の基金を呼び水にして新たな産業の集積を図りたいと思っていたし、農家が自立できる振興策にも力を入れたかった。
明治生まれの祖父、縫(52歳で死去)も政治家だった。いまの東京大農学部を卒業し、町になる前の村長を戦時中にかけて務めた。「この村で大病をすると土地まで失う」と、創設後の国民健康保険の普及を進めた。時代は違うが、自分なりの理想を追いかけていたのだろうと、渡辺は思う。この土地が存亡の危機に見舞われたのは初めてではない。江戸時代の飢饉で人が3分の1に減ったときがあった。1人の家老が私財を投じて、北陸から布教で来ていた僧侶たちを遇し、信徒たちが移住した。渡辺は自分を鼓舞するために、その話をよく持ち出す。
原発事故のあと、約50人の職員が辞めていった。だが、渡辺は積極的に社会人採用を進め、いまの130人の職員のうち、50人余りは県内外から新たに入った。東電と国は、福島第一原発の30~40年後の廃炉をめざしている。そのとき、町の人口がどうなり、どんな産業を育てていけばいいのか。20~30代の職員が中心になって毎月集まり、2年前から議論している。「人間の寿命の80年からすれば、40年なんて短い。次の代がきっと、この土地をつないでいってくれる」と渡辺は願う。大熊町に役場が戻るまで、あと14ヵ月。(池田拓哉)

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