2月6日 広がる統計不正

東京新聞2019年1月31日4面:国会の劣化が招いた 論説副主幹・豊田洋一 学生時代、統計学の授業で最初に学んだのは、発展途上国の年齢統計では0または5で終わる年齢の人口が突出する現象が多く見られる、ということだった。自分の年齢を正確に知らない人が多く、切りのいい数字を答えるためだという。Age Heaping(エージ・ヒーピーング)と呼ばれるこの統計はもちろん正確ではない。正しい統計がいかに大切かを教えるために適した事例なのだろう。
30年以上も前のことを久々に思い出したのは、厚生労働省による毎月勤労統計を巡る不正が政権を揺るがす大問題になっているためである。不正発覚を機に、政府が56の基幹統計を調べたところ、半数近い23で計34件もの不適切処理事案が見つかった。とても先進国の統計と胸を張ったり、他国の統計を不正確だとおとしめたりできる状況ではあるまい。なぜ統計は正確でなければならないか。それは、国でも地方自治体でも企業でも家計でも、何かを決めるときの判断材料になるからだ。基になる数字が違えば、誤った決定になりかねない。毎月勤労統計の不正では、一度決めた2019年度予算の閣議決定をやり直した。
極めて異例の事態だ。統計を巡っては、かつてこんなことがあった。終戦翌年、首相に就いた吉田茂は食糧不足に直面し、農林省の計算に基づいて450万㌧という莫大な輸入がなければ、餓死者が出る恐れがあるとして連合国総司令部(GHQ)に多量のコメ輸入を要請した。実際には70万㌧で済み、マッカーサー元帥に数字のずさんさを責められてると、吉田は「戦前にわが国の統計が完備していたならば、あんな無謀な戦争はやらなかったろうし、またやれば勝っていたかもしれない」と反論して笑い話しになったという。吉田の著書「日本を決定した百年」(中央文庫)から引いた。吉田は農林省の過大な見積もりは、食糧危機を切り抜けたい気持ちが働いていたようだと気遣ってはいるが、そこに、自分に都合のよい数字だけを発表する、戦争中からの名残も感じ取っている。
統計の手法を偽り、不正確な数字を基に政策決定するならば、国民の命を危険にさらすこともあり得る。それほど統計数字が持つ意味は重い。筆者が愕然としたのは二度の政権交代を経ても不正はただせず、10年以上も続いたということだ。統計の操作は官僚の習い性だとしても、政治が見過ごしてきたのは、行政権力の暴走を許す危険な兆候だ。底流にあるのは国会の行政監視機能の劣化だろう。統計不正という深い闇に光を当て、再発を防ぐには、政府に対応を促すだけでなく、国会が国民から託された国政の調査と行政監視の権能を強め、駆使するしかない。安倍政権という一政権だけの問題に終わらせてはならない。国権の最高機関としての存在意義が問われる局面だ。

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