2月5日てんでんこ 伝える「17」原点

朝日新聞2019年1月30日3面:震災遺構解体に無力感。でも前向き。「死を覚悟。悔い残らぬように書く」 目の前で、重機がうなりをあげて「震災遺構」を壊していく。岩手県大槌町で「大槌新聞」を1人で書く菊地由貴子(44)は「自分は何と無力なんだ」と思う一方、「これからが大事だ」と前を向く。多くの職員が犠牲になったこの役場旧庁舎について町長の平野公三(62)は「見たくない人に寄り添う」と、前町長の方針を覆し解体を明言。抵抗した議会も昨春、予算を通した。町民による解体差し止め請求も却下された2日後の19日、本格的に工事が始まった。
菊池は「未来の人や犠牲者のために残すべきだ」と強く思い、熟慮を求める論調で報道を続けてきた。町民の知りたい情報をわかりやすく伝えるために新聞を始めた菊池だが、取材を重ねるうちに「伝えたいこと」が増えていった。旧庁舎の存在意義もその一つだったが、広がらなかった。町内には旧庁舎の解体を望む声が根強く、熟慮を唱えれば読者を失いかねない。大槌新聞は国の補助金を絶たれても寄付や広告で町内に無料全戸配布を続けたが、「いつまでも善意頼みでは」と2017年春から有料化した。途端に部数が激減し赤字に。資産も副収入もないので資金が底をつけば廃刊だ。
しかし、「言いたいことが書けないのなら書く意味がない」との姿勢を貫いた。町民から「こんな小さな町で1人で権力批判して怖くないか」と聞かれても「全く」と答える。そこまで腹がすわっているのはなぜか。獣医師を目指し大学に入ったが、心臓に炎症が起きて心停止し、奇跡的に蘇生したものの数年入退院を繰り返した。今も深刻な不整脈に悩まされる。毎週末、ほぼ徹夜で執筆、編集し、入稿を終えると決まって発作が襲う。視力も弱い。左目は網膜剥離を経験し、頼りすぎた右目も震災後に眼底出血し、視界の真ん中が見えない。
「明日死ぬかもしれないし、失明するかもしれないと覚悟している。毎週、これが最後のつもりで悔いの残らないように書く」毎号1面に「大槌は絶対にいい町になります」と赤い活字で載せる。ハードではなく町民の内面を指すと菊池は言う。「旧庁舎は残すと危険だとか高額な維持費がかかるとか、誤解して解体を望む人も多かった。情報を共有し議論し、賢くなるためのプラットフォームに、大槌新聞はなりたい」(東野真和)

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