2月28日 池上彰の新聞ななめ読み 安倍首相の発言

朝日新聞2019年2月22日13面:正しい? 冷静な確認を ファクトチェックという言葉が使われるようになりました。政治家の発言を、ファクト(事実)に即したものかどうかメディアがチェック(確認)することです。アメリカのドナルド・トランプ大統領は2月5日、議会で一般教書演説を行いました。この様子をニューヨーク・タイムズはウェブサイトで中継しながら、発言内容についてリアルタイムで「間違い」「事実」「誇張」などと指摘しました。政治家の発言は果たして正確なのか。冷静に確認する新聞の役割の重要性を痛感しました。日本では2月10日に安倍晋三首相が自民党大会で演説した内容が事実かどうか議論になりました。安倍首相演説は、次のようなものです。<残念ながら、新規(自衛)隊員の募集に対して、都道府県の6割以上が協力を拒否しているという悲しい実態があります> これには驚きました。それほどまでに反自衛隊感情が蔓延しているのか、と思ったからです。
ところが、実情は異なるようです。朝日新聞は13日付朝刊の「ファクトチェック」というコーナーで、「9割近く 台帳閲覧など協力」という見出しの記事を掲載しました。<首相は1月30日の衆院本会議でも同様の発言をしている。10日の自民党大会では「都道府県の6割以上」と述べたのが、岩屋毅防衛相は12日、閣議後の記者会見で「都道府県と言うよりも市町村だ」と修正。その上で「6割ほどが協力をいただけていないのは事実だ」と述べた>
都道府県の6割と市町村の6話では受ける印象が異なります。<では、市町村の6割以上が協力を拒んでいるのか> 自衛隊員募集に当たり、対象者のリストアップをするため、防衛省は市町村に対象者の名簿を「紙媒体または電子媒体」で提出するように求めています。2017年度に全市町村のうち紙か電子媒体で提出したのは約36%です。「その意味では6割以上から協力が得られていない」と防衛省の担当者は朝日新聞の取材に答えています。
<ただ、ほかの自治体が全く協力していないわかではない。全体の約53%に当たる931自治体は、自衛官募集のため住民基本台帳の閲覧や書き写しを認めている。紙や電子媒体で名簿を提出している自治体と合わせ、9割近くが募集に協力していると言える。紙や電子媒体で名簿を提出していないのは、「市の個人情報保護条例に照らして提出できない」(福岡市)といった理由もある> ここまで読むと、紙や電子媒体で提供していない市町村のことを「協力を拒否している」と言い切った安倍首相の表現は言い過ぎのように思えます。毎日新聞も13日付朝刊で、次のように報じています。
<岩屋毅防衛相は12日の記者会見で、安倍晋三首相が10日の自民党大会で自衛隊員募集に関して「都道県の6割以上が協力を拒否している」と発言したことについて、実際は約9割の自治体から情報提供を受けていると事実上認めた> こうした朝日や毎日の報道を真っ向から批判したのが産経新聞の13日付朝刊の「主張」です。<安倍首相は国会で、6割以上の自治体から「募集に必要な協力が得られていない。誠に残念だ」と述べた> と指摘した上で、朝日などについて<約9割が協力したと言って首相を批判している> が、<首相が6割以上で協力を得られていないのはファクトだ> と反論しました。
朝日や毎日が指摘したのは、自民党大会で「6割以上が協力を拒否している」と演説したことが正確ではないということです。ところが産経は、自民党大会ではなく、「協力を得られていない」という国会での発言について批判は当たらないと言っているのです。取り上げている発言が異なるのですから、これでは反論になっていません。何を議論しているのかの正確な認識がなければ、実のある論戦になりません。 ◇東京本社発行の最終版を基にしています。

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