2月27日 天声人語

朝日新聞2018年2月19日1面:締め切りは、いちど遅れるとくせになるらしい。そして言い訳も凝ったものになる。「遅筆堂」を任じた作家の井上ひさしさんの場合、「懐かしい友人が訪ねてきましてね」「自動車事故を見物しているうちについ」は、まだ単純なほうだ▼「大家の猫が原稿の上にとび上がりインクをこぼしましたので」「大家の夫婦の大喧嘩の仲裁に入りましたところが、これが結構揉めまして」など放送作家時代の弁明がエッセーにあり。笑いを誘い大目に見てもらおうとしたか▼締め切りを守らぬ点では日本銀行の黒田東彦総裁もかなりのものだ。デフレ脱却のため掲げた「2%」の物価目標がなかなか達成できず、6度先送りした。「原油価格が下がったため」「携帯電話が値下げされたため」などの言葉は、どこまで正しくどこまで言い訳か▼そんな彼がもう5年続投するという人事案が国会に示された。「公約を守れなかった総裁なのに」との批判がある。しかし考えてみれば、物価が2%まで上がらずに困ったという声が世にどれだけあるのだろう▼物価から目を転じれば倒産が減り、失業率が下がって高校生や大学生の就職もいい。すべてが日銀の仕事の成果ではないにしろ、結果に責任を負うのが中央銀行である。景気を失速させず、一方でバブルも起こさないという課題が引き続きのしかかる▼「良い本を書き上げ、内容のよさで遅れを勘弁してもらう」。井上さんの挽回策の一つだった。日本経済のかじ取り役も、願わくはそんな姿勢で。

朝日新聞ASAの伸光堂西部販売 森林文化協会

ご予約・お問い合わせはお気軽に

Tel0120-740-276

〒352-0011 埼玉県新座市野火止8-14-29

ページトップへ戻る