2月26日 窓 大雪前夜 名前も知らない女性に

朝日新聞2018年2月18日34面:男性(65)は、公園のコンクリートの地面に座り込んだ。持ち物は着替えを入れたバッグ二つ。数日前に見知らぬカップルからもらった毛布を肩にかけ、目を閉じた。2月21日、東京都杉並区。日が暮れ、だんだんと気温が下がっていく。「この先どうなるんだろう」。寒さと心細さで、眠れなかった。日雇いの仕事をしていたが、年とともに見つけにくくなった。家賃を払えなくなり、ワンルームマンションを追い出されたのは5日前。次第に、思うように足が動かくなくなった。「雪が降る、と天気予報で言っていました」突然、声が聞こえた。ジャンパーを着た小柄な女性が立っていた。30代か40代。
女性は、真剣なまなざしで続けた。「危ないから、病院に行きますか。それとも施設を紹介しましょうか」男性はびっくりしながら、「施設でお願いします」と答えた。「ちょっと待ってて」。女性はそう言うと、いったん立ち去った。10分後。3枚の紙を手にして戻ってきた。そこには、ホームレスらの支援団体のホームページが印刷されていた。「それ、タクシー代に」。女性は5千円を差し出し、まもなく姿を消した。
近くでタクシーを拾って、男性は施設に向かった。料金は1770円。途中で弁当も買った。丸一日、何も口にしていない。焼いたサケが、うまかった。翌日、施設のスタッフが区役所の窓口に連れて行ってくれた。その日の夜、「一時的に」と案内されたネットカフェでシャワーを浴び、コーヒーを飲んだ。外は大雪。都心で20㌢以上も積もった。「下手したら、凍死していた‥」あの女性は、誰なんだろう。いま生活困窮者のための宿泊所で暮らしながら、顔を思い浮かべてみる。手渡された紙は、折りたたんでバッグにしまってある。(青木美未希)

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