2月23日 聖火は照らす 「神聖な使命」五輪に参入 

朝日新聞2019年2月18日1面:アリババ、ネット戦略切り口に レマン湖畔の街、スイス・ロザンヌにある国際オリンピック委員会(IOC)本部。1月22日、中国のネット通販大手、アリババグループとIOCの幹部が集う戦略会議があった。IOC会長のトーマス・バッハ(65)がデジタル活用の重要性を訴えるかたわらで、アリババグループ会長の馬雲(ジャック・マー、54)が冗談めかして言った。「私の家には12個のテレビスクリーンがあるが、この1年、一度もつけたことがない。テレビはコンテンツを得る手段でないからだ」会議に同席していたIOCの初代マーケティング部長、マイケル・ペイン(60)はスポーツ界で起きている「第3の革命」をあらためて思った。第1波はテレビ中継が本格化した1960~70年代。第2波はスポンサー制度が確立した80年代。そして、いまはスマートフォンで映像をみてSNSで情報を拡散する時代だ。「アリババによるデジタル革命は、過去の2度と比べても、劇的な変化をもたらすと確信している」 高騰する契約金 99年創業で、いまや世界有数の流通企業になったアリババは2017年1月、IOCの最高位スポンサー「TOP(the Olympic Partners)」に加わった。TOPは現在、コカ・コーラーやパナソニックなど13社。五輪マークを独占的に宣伝活動に使える権利を持つ。12年ロンドン大会まで4年で100億円前後が相場だった契約金は、さらに高騰しているとされる。アリババは、データやソフトウェアをネットを通じて管理するクラウドサービスにからむ業務をIOCから請け負う。20年東京大会は映像管理や選手の動きの3D分析にとどまるが、自国開催となる22年北京冬季大会では、チケット発券や輸送、セキュリティーなど、他分野で運営に深くかかわる考えだ。五輪はいま、岐路に立っている。IOCに加盟する国・地域は200を超え、経費負担は開催都市にのしかかる。開催に手を上げる都市も先細り。ドーピング問題や大会招致をめぐる買収疑惑など、肥大化する大会の負の側面も表面化した。
「大会費を削減」だが、アリババの五輪担当役員、董本洪(クリス・トン、49)は自信を見せる。「われわれのクラウドを使えば、大会費用を削減できる」。データやノウハウをクラウドに蓄積し、複数の大会を通じて使えるようにすれば、開催地の負担を減らせるというのだ。アリババが、そこまで入り込む五輪とは何か。董は言う。「他のスポーツイベントとは違い、五輪には非常に崇高なスポーツ精神があり、全世界のスポーツに影響力を持つ。TOPとして参加することは、戦略的なものであると同時に、神聖な使命でもある」両者の蜜月の陰で、約40年にわたって五輪を支えてきた企業が契約期間を残してTOPから退場した。米ファストフード大手のマクドナルドだ。=敬称略 (福田直之=杭州、稲垣康介=ローザンヌ、野村周平)


同日2面:マック撤退「五輪は色あせた」肥大化する大会支え 蜜月40年に幕 「世界的な成長戦略の一環として、他の優先事項に注力する」マクドナルドは2017年6月、わずかに役員声明を出しただけで、国際オリンピック委員会(IOC)の最高位スポンサー「TOP」から撤退した。20年東京五輪・パラリンピックの大会組織委員会のTOPサービス課長、鳥居圭(40)は振り返る。「マクドナルドは、世界中の選手が安心して口にできた。それが突然なくなってしまった」すでに東京・晴美の選手村の店舗に設置する調理機器などについて、調整を進めていた。マクドナルドは、1976年から五輪のスポンサーを務めてきた。96年アトランタ大会以降は選手村に店舗を設営。08年ピ金大会では、陸上男子のウサイン・ボルト(ジャマイカ)が無料で提供されるチキンナゲットを約1千個平らげた、と話題になった。IOC、したたかにブランド向上 社会問題に積極姿勢スポンサーも解決策
「五輪はわれわれのブランド強化を促進させる存在だった」。90年代に米マクドナルドのCEO(最高経営責任者)を務めたエド・レンジ(74)は振り返る。ハンバーガーを食べるトップ選手の姿がテレビを通じて全世界に伝えられ、「一般の人に『マクドナルドはいい』と、好印象がひろがっていった」。開催都市に店舗が新設され、欧州やアジアで新たな市場開拓につながった。いまでは欧州の40カ国をはじめ、世界の100超の国・地域に3万店以上が広がった。
なぜ、マクドナルドは契約を打ち切ったのか。一部の海外メディアは、同社に対する「ジャンクフード」批判が背景にあると読み解いた。IOCが「健康」という理念を掲げるなか、マクドナルドが変われなかったとの見方だ。レンジはこれを否定した。「昔は投資以上の利益があった。いまは逆だ。ドーピングや選手への性暴力相次ぎ、五輪は色あせた。私はいまでも多くのフランチャイズ関係者と話をするが、五輪のことなど、だれも話題にしない」強調したいのは、肥大化した五輪の負の側面だった。 五輪の運営は盤石ではない。東京大会では、関連経費を含めて2兆円を超える総経費が批判の的に。負担の重さから、招致熱は冷え込み、冬季大会を中心に立候補都市の辞退が相次いだ。IOC会長のトーマス・バッハは「これ以上、大会を肥大化させるつもりはない」と危機感を漂わせる。
しかし、企業の新規参入は続く。巨大五輪の課題解決に貢献することは、社会問題の解決策を示し、自らのブランドを高めることにつながるからだ。17年はアリババだけでなく、米半導体大手のインテルが加わった。18年平昌冬季大会の開会式では、1千台超のドローンで夜空に五輪マークを描き、話題を呼んだ。ゴーグルをつければどこにいても、競技場の臨場感を味わえる同社のVR(仮想現実)技術には、大きな競技場を建設する必要がなくなると熱いまなざしが向けられている。15年にTOPになったトヨタ自動車は、業種が自動車でなく「モビリティー」。東京では水素バス、自動運転などの最新技術でも、お年寄りや障害がある人たちにも適した移動方法をみせる考えだ。交通渋滞を緩和する輸送システムの構築にも力を入れる。
企業をいまなお、五輪に引きつけているのは、みずからの「神聖さ」に磨きををかけるIOCの巧みなマーケティングだ。IOCは五輪憲章にある「クリーンベニュー」という大原則を徹底している。大金を払っても、スポンサーは競技場(ベニュー)内に広告を出せない。企業からすれば一見、メリットのないルールだが、サッカーワールドカップなど他の国際スポーツ大会と一線を画し、公共性を強める要因になっている。
さらに、IOCは社会問題の解決に積極的な姿勢を見せて、ブランドを高めようとしている。16年リオデジャネイロ大会で難民選手団を結成。平昌大会では、アイスホッケー女子の韓国・北朝鮮合同チームを承認した。国連が掲げる「持続可能な開発目標」(SDGs)に同調するもの、その一つだ。あるTOP幹部は「IOCはかしこい。世界の流行に敏感に反応し、企業をくすぐるブランドイメージをうまく作り上げる。多少問題はあっても、企業にはまだまだ魅力的だ」と皮肉交じりに言う。IOCのTOPからのスポンサー収入は右肩上がりで、13~16年は1100億円に上った。 =敬称略 (遠田寛生、末崎毅、野村周平)
84年から「1業種1社」制 東京の最高位は13社 東京五輪のスポンサーは4層構造だ。最高位のTOP13社はIOCと契約し、世界中で五輪マークを使った販促活動を展開できる。日本国内では上位の「ゴールドパートナー」、中位の「オフィシャルパートナー」、そして「オフィシャルパートナーサポーター」がそれぞれ大会組織委員会と契約を結ぶ。位置づけに応じて、大会エンブレムや過去映像などを使う権利が与えられる。IOCは、商業化にかじを切った1984年ロサンゼルス大会から「1業種1社」のスポンサー制度を導入。企業間の競争を促し、協賛の希少性を高めた。84年大会のスポンサー収入は約300億円に上り、黒字化に成功。翌85年にはTOPを確立した。協賛金は放映権料と並び、IOCの収入の2本柱だ。TOPは長く日米企業が中心だったが、97年に韓国サムスン電子、その後、中国・レノボ、台湾・エイサーなどが続き、日本以外のアジア企業の存在感も増してきた。TOPの協賛金は10%をIOCが使い、残り90%を組織委や各国の五輪委員会などに分配する。

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