2月22日 芸能人もの申せない?

朝日新聞2019年2月16日15面:沖縄・辺野古の埋め立てに反対する署名を呼びかけたタレントのローラさんに、批判の声があがった。発信力のある芸能人は、政治や社会問題について発言してはいけないのか。 若さ・立場で軽く見ないで りゅうちぇるさん タレント・歌手 芸能人も、自分なりの考えや関心があることは、発信すればいいと思います。僕は難しい言葉は知らないし、自分の経験から学んだことしか話せません。でも、性別にとらわれない自分らしい生き方や、出身地の沖縄のことなど、身近に感じられる問題は話すようにしています。たとえば昨年12月にニュース番組の同性愛の特集に出演して、「異性愛と全く同じ愛なのに、性別を理由に結婚が認められないのは、不公平で悔しいです」などとお話ししました。僕自身は好きになるのは女の子ですが、わかいいものが好きでメイクもするので、よく「オカマ」と言われてきました。周りにも同性愛の当事者は多いです。同性婚についての現状や悔しさは知っていたから、オファーに応えて出演し、発言しました。自分らしく生きることの大切さを発信し続けるうちに、メイクやファッションなどハッピーな話題だけでなく、社会問題についてもメディアで意見を求められる機会が増えました。それが普段から考えていたり話したりして知っている問題なら、答えています。
同じ話題を、もし政治家の人が話したら、「意味がわからない、難しい」と感じる若い人もいるでしょう。僕が話すことで、その問題がわかって、参加できる人が一人でもいるなら、いいいと思います。でも、社会的問題について話すと、そういう話題を発言したこと自体がニュースになったり、「問題を本当に理解して発言しているのか」と言われたりすることがあります。発言した内容について考えて欲しいのに、おかしいなと思います。もちろん、「問題を本当に理解しているのか」と問いかける人がいるのは、いいんです。けれどもし、芸能人だから、若いからと、発言した人の立場によって内容まで軽く見ているとしたら、なぜそういう風に人を見るのかかなと思います。また、たとえば同性婚にについて、「センシティブな問題だから話題にしたくない」という感覚自体、古いなとも感じます。話すと本当に場が盛り下がってしまうのでしょうか。僕はSNSでファンの子に自分の考えを正直に伝えてきました。誤解が生まれたらコメントに返信して説明するということをずっと積み重ねて、お互いに信頼できる関係を作ってきました。だから、何かを怖がって発信を避けたら、逆にファンは離れてしまうのではないかと思います。これからも自分の考えを発信することを優先したいです。せっかく芸能人という表現できる立場にいて、僕の言葉を聞いて、明日も生きていけるという人がいるかもしれないのですから。それが僕にとって芸能という仕事のやりがいだと思っています。(聞き手・高重治香)
出演に影響守る仕組みを 中川淳一郎さん ネットニュース編集者 芸能人は、影響力があるからこそ、社会が議論する材料を提供するために政治的発言をするべきだと思います。しかし日本の芸能人、特にテレビのCM出演が中心の芸能人の政治的発言は、多くのリスクを伴います。マドンナ旋風や郵政解散などを経て政治のワイドショー化が進み「このハゲー」といった驚く言動をする政治家もでてきました。芸能人が政治をネタにするテレビ番組は、以前く比べ増えた印象があります。それなのにローラさんによる辺野古の埋め立てを巡る発言が注目され、炎上したのはなぜか。普段の、おしゃれなのに素っ頓狂なキャラ設定と違う面を見せ、その意外性が戸惑いを生んだからではないでしょうか。ローラさんが政権に批判的な発言をしたからバッシングされたと感じた人もいたようですが、私は違うと思います。ネットメディアのライターが、意外性があって炎上しそいな発言を探し出し、過激な見出しをつけて「右」「左」両方に火をつけようとしているからです。おばかキャラで通っていたつるの剛士さんが右寄りの発言をして、炎上した例もあります。
強調の対立が激しい中国や韓国、沖縄の問題に生半可な知識で発言すれば、火をつけられた側の立場にある詳しい人がかみついてきます。知性や知識が足りないと印象づけられるリスクがあるのです。また以前、広告業界にいた経験から、過激な勢力を刺激する芸能人の発言は、テレビやCM出演にも悪影響が出ると感じています。一部勢力はネット上でつながり、スポンサー企業に「あんな過激思想を持っている人物をなぜ起用するんだ」と執念深く電話やデモ講義をします。経営に多大な影響が出るわけではありませんが、かなりうっとしい。唯一無二の存在でなければ「別の人物を起用しよう」ということになります。
日本の芸能人が最もやりたい仕事は、民放のCM出演です。1日拘束されるだけで、大物なら数千万円の収入になる。バラエティー番組やドラマ・映画出演よりも何倍も実入りがいい。日本の地上波のテレビCMは好感度勝負です。「私は売れていないから」と開き直るか、「私はCMで勝負しない」と割り切らねば、「万人に好かれなくては」という力学が働き、ますます政治的発言を避けるようになってしまいます。CMに出演する芸能人が萎縮せずに発言できるよう、企業はクレームに屈しない仕組みを作るべきです。電話対応をやめ、原則、ネット上の問い合わせフォームで意見を受け付け、健康被害や不良品などには電話で対応する。極端な立場の人からSMへの抗議が寄せられた場合は、反応しないようにすればいいのです。(聞き手・後藤太輔)
SNS発のうねり今後も 横江公美さん 東洋大学教授 ローラさんが政治的発言をしたと話題になったとき、「ミレニアル世代」という言葉が思い浮かびました。2000年代に成人した世代として米国で注目され、主に1980年代から90年代に生まれた世代を指します。ローラさんは90年生まれ。地球環境問題などに関心が高く、ネットが当たり前のものとして育つ中、SNSで「みんなで世界を良くしていこう」と訴えるスタイルがミレニアル世代の特徴です。少子化で大事にされてきたがゆえに「人の役に立ちたい」と思う優しい世代でもあります。今回の発言も、SNSのインスタグラムへの投稿でした。日本政府が加速させる米軍基地建設によって「美しい沖縄」が「埋め立てをみんなの声が集まれば止めることができるかもしれないの」と呼びかけました。昨年、インスタグラムで人種や性的指向による差別解消を訴えた米国の歌手テイラー・スウィフトさんも、その一例でしょう。米国の芸能人らが政治的発言を積極的にできる理由の一つは、対立する共和党と民主党、いずれの側にも一定の資金力があるからです。どちらかの側に立って発言しても干されないのです。
また、白人が牛耳る国において、黒人やヒスパニックなどの少数派は発言することで生きる場を獲得してきました。日本では「言うと叩かれる」との言葉がもっともらしく語られますが、米国では「言わなければ生きていけない」現実があるのです。このように、日本と米国の政治的発言をめぐる背景は大きく違います。干される心配が日本でより深刻だとしたら、「一強」をよしとする政治や社会の雰囲気も影響していると感じます。ローラさんの発言には「沖縄の現実を知らないくせに」「安全保障を考えているのか」という批判があったと伝えられています。一方、ローラさんの意見や感性をくみ取る形で討議が深まったといえば、それは疑問です。ローラさんの発言の是非を論じるなら、新しい政治的感性が登場しつつある可能性も考慮すべきです。
専門家ではない著名人がネットで発言して注目される機会は今後、さらに増えると思います。SNSで共有されて社会に「うねり」が生まれる傾向は、旧世代が排除しようとしても不可能です。頻発するようになれば、干そうとしても干しきれない状況がいずれ生まれるでしょう。そうだとすれば、今後の課題は、著名人の発信をつぶすことではなく、民主主義を深化させる機会にできるかどうかです。まずはローラさんの話に丁寧に耳を傾ける機会を設けることから、始めてみてはいかがでしょう。(聞き手・ 編集委員・塩倉裕)

 

 

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