2月21日 奨学金破産「上」

朝日新聞2018年2月14日39面:娘が破産400万円の重荷 定年後も仕事 月3万円返還 2年前の冬。還暦を過ぎた父は、母方の叔父の家まで足を運び、頭を下げた。「娘が自己破産をさせていただきます。何とか私で食い止めますので、迷惑はかけません」娘は30代になった。大学へ行くために日本学生支援機構から奨学金476万円を借りていた。父に連帯保証人、叔父に保証人になってもらった。卒業からしばらくして、返還金の重さに耐えられなくなった。高校時代は生徒会長。テレビやラジオの世界で働きたくて私立大学のメディア系学科に進んだ。だが、生活費も稼ぐためにアルバイトを掛け持ちし、疲れ切って勉強に身が入らなかった。就職氷河期と言われた2010年春、業種を問わず15社を受け、愛知県内の遊興施設に就職した。奨学金を返すことを優先した。
しかしまもなく、職場の人間関係に苦しみ、体調不良で月に何度も通院するうようになる。4年近く我慢した末に辞めた。奨学金の残額は400万円以上。相談した司法書士に勧められ、自己破産を決めた。請求は父に回った。「いつか必ず返すから」。父に約束した矢先、交通事故に遭って入院し、再就職もままならなくなった。
父はゴルフ場の調理師として住み込みで働き、定年を迎えたばかり。娘に続いて破産すれば返さなくて済む。でも、小学生の子どもを抱える叔父に迷惑がかかる。母からも「それだけは絶対にやめて」と釘を刺された。仕事を続けなが毎月3万円ずつ返している。
「安易に借りさせた親の責任でもある。ただ、このままずっと仕事ができるのか」娘は最近、短時間のアルバイトができるまで回復した。「父に申し訳ない」。負担を減らせるよう、保育士をめざしてバイトの合間に勉強している。昨秋、日本弁護士連合会が「奨学金返済問題ホットライン」を1日設けた。38件の電話相談があり、29件はお親や親族からだった。「息子が給与の差し押さえ予告を受けた」「自分が死んだら、どこまで請求がいくのか」といった声が寄せられた。いまや8割を超す大学などへの進学率は、国の奨学金事業が支えた面もある。一方で、親と親族を保証人に立てる制度を通じて、負債の連鎖も起きている。
控える予備軍「無力感しか」 「奨学金問題対策全国会議」の事務局次長・西川治弁護士は「大量の自己破産予備軍も、すぐ奥に控えている」と指摘する。延滞が3カ月以上続く人は16年度末で16万人。機構が15年度に抽出調査したところ、40歳未満が9割、年収300万円未満が8割近くを占めた。今後、決められた月額を返還できると答えた人は3割強だった。年収300万円以下などを対象とした返還猶予制度(通算10年)を使っている人は延べ10万人おり、19年春から猶予期限が切れ始める。西川弁護士は「その頃から一斉に返還請求が始まり、自己破産ドミノを起こす恐れがある」とみる。
関西地方に住む非正規のエンジニアの男性(33)は、この「期限切れ」が3年後に迫る。私大(理系)在学中に670万円を借りた。卒業後の09年に就職したIT企業では、残業が月100時間を超えた。次の会社でも深夜まで働き、年収306万円。うつ病と診断され、休職と転職を繰り返した。これまで7年分、返還猶予が認められた。仕事が見つかっても、猶予の条件がある年収300万円を超えないよう気をつけてきた。残額は600万円余りある。
じつは、住宅ローンの返済も抱える。結婚後、妻の強い要望で、1900万円の中古マンションを買った。頭金の半分は義母が出してくれた。返済は月5万5千円。それまでの家賃と変わらないと思い、踏み切った。でも体調は回復せず、思うように働けない。
大学時代は成績優秀で、4年間、授業料の半額を免除された。それでも正社員にはなれなかった。就職で人生の歯車が狂った。子どもを持つつもりも、その余裕もない。うつ病で5ヵ月休んだ昨年は、妻と合わせた収入が200万円足らず。猶予が切れ、自己破産すれば自宅マンションは手放すことになる。持ち家を大切にしている妻からは、離婚を切り出されるかもしれない。「ゴールが見えず、無力感しかありません」(諸永裕司、阿部峻介)
🔶国の奨学金にからむ自己破産は過去5年間で延べ1万5千人。半分は保証人である親や親戚だった。将来をひらくはずが未来を閉ざす重荷となり、家族に連鎖している。奨学金のいまを2階にわたり報告する。

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